終身雇用・年功賃金・社会保障制度を前提とした“35歳転職限界説”の終焉

“35歳”までに職業・職場を固めておかなければ、それ以降の仕事先がなくなり転職も難しくなるというのはかつての『転職市場の定説』だったが、『終身雇用・年功賃金の前提』が崩れることでその定説も変わってきている。

“35歳転職限界説”が崩壊? 転職した人の平均年齢
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1305/15/news087.html

35歳以上になると転職ができなくなるという“35歳転職限界説”の根拠は、概ね以下の2点にあった。

1.終身雇用・年齢給(年功賃金)……大企業を中心として日本の雇用は“能力主義・成果主義の競争原理”ではなくて“解雇規制・年功序列によるメンバーシップ制”で運用されてきたため、『年齢の異なる社員』を新卒以外の採用ルートで雇い入れることに消極的であり、『同期感覚(内と外の区別)・年功意識』を持つ社員相互の納得がゆく給与算定がしづらかった。

2.社会保障制度……60歳定年制を前提とすると“25年以上の保険料納付”の年金受給資格を得るためには、35歳までに保険料の納付実績が必要であり、企業には更に独自の『企業年金制度』を持っているところも多いため、(年金・福利厚生の平等感覚や横並び意識などから)入社以前の社会保障制度の加入状況が曖昧な35歳以上の人材(フリーランス・フリーターなど)を敬遠する傾向があった。

これはどちらかというと、『転職限界説』というより『(フリーランス・フリーター・無職から正規雇用への)就職限界説』というのに近いかもしれない。

現在でも、新卒採用で入社した大きな会社にできるだけ長く在籍し続けること(社内での職位・評価を高めること)が最大のキャリア自衛策だという考え方は確かに強い。

だが、その一方で企業の規模・業績・経営方針あるいは人材の汎用的なスキルや経験・実績の観点から、『一つの企業に留まれない人(転職を余儀なくされる人)』や『一つの企業に留まりたくない人(転職を自ら志向したりヘッドハントされる人)』が増えており、30代以降に転職をしなければならない人(したい人)は今後も増え続けることになる。

終身雇用の崩壊と解雇規制緩和の揺さぶり、コンテンポラリー(現時点的)な能力評価によって、『会社に所属しつづける優位性(特定の会社に留まりつづけて評価されること)』に『専門的かつ汎用的なスキル・実績・人脈を持つ優位性(どこの会社でも働けるような自分なりの長所や売りを有すること)』が差し迫ってきている。

35歳転職限界説の瓦解は、トップ層では言語圏・国籍を飛び越えて働けるグローバル人材、雇用される企業組織にこだわらずにどこでも働ける専門家、実績ある管理者(経営者)の増加(今よりも良い条件を提示できるような強さを持つ人材)を示しているが、ボトム層では正規雇用の特権の緩やかな溶解による『現状維持を目的とする仕事の渡り歩き(キャリアの積み上げと関係しない働き方)』が増えることになるだろう。

35歳転職限界説というのは、昔でも『正規雇用の安定感・キャリアや所得の上昇(悪くても現状維持)』を前提とした堅い生き方(中流階層のライフデザイン)をする上での限界であって、どんな仕事でもやってキャリアの蓄積(雇用形態・職位権限)や給与水準(賞与の有無)にもこだわらないというのであれば、元々、年齢制限というのは無かったといえば無かった。

>>職種別に転職者の年齢割合を見てみると、20代の割合が最も多いのは「販売・サービス系」の70%で、全体平均の50%を20ポイントも上回った。次いで「専門職系」(67%)、「営業系」(63%)が続いた。

>>30代以上の割合が最も多いのは「技術系(建築/土木)」の73%で、全体平均の50%を23ポイントも上回った。次いで「技術系(機械/電気)」(64%)、「技術系(IT/通信)」(61%)が続いた。

20代と30代の転職者の職種の違いは、端的には『技能・実績・評価を継続的に積み上げられるような職種か否かの違い(長期的にその職業に従事することによる初心者・未熟者との差異、自分の有利が分かりやすく形成される職種か否かの違い)』である。

20代の営業・販売・接客などであれば『若さ・明るさ・素直さ・イメージ』といった要素だけでも十分に採用される魅力・売りになりやすいが、年齢を重ねるにつれて『ポータブルスキル・キャリア構築』といった仕事そのものに対する即戦力としての有用性・客観的評価が求められやすくなる。そのため、『今している仕事の積み重ねから得られるスキル・実績・資格(今の仕事と次の仕事とをつないでいく連続的な評価)』を意識しながら、実際に行動(学習)してそのスキルを伸ばせているような人が、『転職市場における年齢制限』と無縁な人材になっていく。