新型うつ病はなぜ増えたか2:消費文明の爛熟とストレッサーとしての仕事の受け止め方

新型うつ病増加の環境的要因としては、『社会的規範・家父長的権威の弱体化』や『個人の自由の範疇の拡大』などによる『理不尽・不条理・しごきに耐えられるストレス耐性の低下』も考えることができる。学校を卒業して仕事を始めるまでのメンタリティが文明社会の利便性・楽しみを享受するだけの『消費者意識』に固定されやすく、『生産者・サービス提供者としての意識(それに伴うストレス状況の繰り返し)』にうまく適応しづらくなっているという問題も指摘される。

新型うつ病の増加には、本人のストレス耐性が低かったり勤勉な継続性・義務意識にやや欠けていたりという要因も当然あると思うが、『消費文明社会の爛熟・拝金主義や格差社会』によって商品・サービス・娯楽・ネット・情報を絶えず小さな頃から受け取り続ける社会環境になったことが、『仕事・職場・上司部下(先輩後輩)のような関係』を“最後のストレッサー(数少ない思い通りにならない不満な事柄)”として受け取りやすい個人を増やしてきたという側面もあるだろう。

現代の先進国では、仕事以外の社会生活の諸側面における『快楽性・娯楽性・自由度』が高まっている一方で、『仕事の分量・負担感』は過去に比べてほとんど減っていないどころか、現在のほうが主観的に負担や拘束を苦痛に感じる度合いが大きくなっているというアンケート調査もある。特に自分の適性や能力発揮が生かされていない仕事状況において、仕事におけるストレス耐性・忍耐力は低下しやすくなり、逆に過剰適応(義務感・責任感の過剰)による燃え尽きで過労自殺や重症の精神障害にまで追い込まれる人もいる。

また現代の仕事を巡る格差では、『主観的に面白くて刺激的な発展性(創造性)のある仕事』をしている人ほど所得が高くなりやすく、『主観的に面白みがなくて義務的な発展性(創造性)のない仕事』をしている人ほど所得が少なくなりやすい傾向があったり、『金銭の大小よりも時間・自由度を重視する価値観』が広まっていることもあって、『忍耐・我慢・継続の美徳』を裏付けていた終身雇用・年功序列の実利がなくなってきていることも影響する。

新型うつ病はいわゆる詐病(仮病)ではなく、新型うつ病の分類として精神発達過程の停滞による依存性・逃避性・情緒不安定を指摘する『未熟型うつ病』や自己愛が強くて社会・他者への積極的関心がなくなる『現代型うつ病』があるように、基本的には『環境・ストレスに対する不適応反応の類型』として理解すべきものなのだろう。S.フロイトの時代のヒステリー性格の特徴(自己中心性・情緒不安定性・自己顕示性・依存性逃避性・他罰性)とかなりオーバーラップするという意見もあり、ストレッサーに直面したことによるストレス反応性障害(抑うつ神経症)の様相を示す。

厳密には新型うつ病は『うつ病(気分障害)』というよりは『抑うつ感を伴う適応障害』『(精神分析でヒステリーの一種としてあった)抑うつ神経症』『(本業はできないが趣味はできる)退却神経症・アパシーシンドローム』により近いものではないかと思うし、現代の消費文明社会(消費者優位の市場経済)やウェブ社会(情報化社会)、スピード化社会の環境変化によって従来型・忍耐型のワークスタイルに対する適応能力がおしなべて下がっていることの現れとも言える。

新型うつ病の治療方針としては、従来のうつ病の『長期休養・薬物療法』ではなく『自立レベルを高めるための認知療法(自己認識と適応方略の再検討)』だとか『ストレス耐性を上げる行動を試行する行動療法(自分のできること・耐えられることの範囲を実際のチャレンジ行動で広げていく)』だとかが中心になってくるのだろう。

消費文明の時代精神や仕事以外の誘因が氾濫する環境要因、格差社会や努力・持続の有効性の懐疑、精神疾患についての知識・啓蒙の増加、ストレッサーに対する認知、他者・社会と向き合う自己認識(自己評価のあり方)から発症してくるのが、『新型うつ病』と呼ばれるストレス反応・適応障害なのだと考えるべきなのかも。また、現代日本のように『豊かさ・利便性の頂点栄華』を極めた国・地域が、斜陽傾向を示し始めて自分の未来が暗く感じられ始めた(努力の空回り感覚に鬱屈し始めた)という環境変化も、何らかの形で新型うつ病の増加と関係しているかもしれない。