埼玉の特養老人ホーム『フラワーヒル』で3人の傷害致死事件1:老人福祉施設における死因確認と事件の見過ごし

埼玉県春日部市の特別養護老人ホームで、2010年2月に高齢の入所者3人が死亡したが、当初死因は『病死(心不全)』で片付けられており、肋骨骨折などの暴行の痕跡に気づくことはできなかったという。

終身滞在型の特養では80代以上の高齢者が多いために入所者の病死・自然死(老衰死)は珍しいものではないと思うが、瀕死の危篤状態でもなかった3人が日にちを開けずに立て続けに死亡し、その発見者がすべて2日前に就職したばかりの容疑者だったことは偶然にしては符号が合いすぎている感じはある。

しかし、普通は老人ホームの同僚が虐待や殺害をしたという疑いを掛けるはずもなく、報告を受けた上司・同僚はそういった殺傷事件の犯罪の可能性さえ殆ど考慮しないだろうから、暴行現場の目撃や流血など明らかな異状といった状況証拠がなければ、『あなたが虐待(暴行)を加えて死なせたのではないか』という訊問のような行為が所内で行われることはなく、発見した状況の簡単な聴き取りで終わるだろう。

医師の死亡確認や死因判定が非常に簡便で注意が足りなかったのではないかという批判もあるが、『高齢者福祉施設における死亡事例』では明らかな身体所見の異状や犯罪状況を示唆する情報が確認されない限りは、常識的には司法解剖や警察の捜査に回すような対処を取ることは少ない。

また、『平均寿命の近い高齢者』という認知的バイアスの影響はあるだろう。正すべきは、この寿命・死期が迫っていて身体機能が年齢相応に衰退しており、何らかの病気(肺炎・循環器疾患など)をすれば助かりにくいから明日死んでもおかしくはないという高齢者に対する『認知的バイアス』ではある。

今回の傷害致死事件は、県警の『死亡時画像診断(Autopsy imaging:Ai)』のような死後の死因の追跡的調査で明らかになったということで、警察側の死因へのこだわりが真実の発見につながったと言える。

埼玉県警は11日に、別の入所者に対する傷害容疑で逮捕された同県松伏町松伏の29歳男性の介護福祉士を逮捕したが、写真に写っている姿は笑顔で柔和な印象を与える人物である。入所者の家族の評判も悪くなくて一生懸命に仕事に取り組んでいるように見えたというが、同僚・上司とはなぜ自分のことをもっと認めてくれないんだという『承認欲求を巡るトラブル』を複数回にわたって起こし、高齢者福祉施設の職場を何度か変えていたという。

傷害致死の動機についても『第一発見者になって同僚にほめられたかった』という『承認欲求の歪みや過剰』に基づくものであり、29歳の容疑者は慢性的に自分の仕事ぶりや存在が職場で認めてもらえず評価されないという『承認欲求の飢餓感』を抱えていたようである。