東京都議選の自公の圧勝。参院選も自民が圧勝する可能性は高いが、その『憲法観に見る理念・楽観的な公約』には懸念も多い。

円高を是正して株価を一時的にせよ押し上げた“アベノミクス”の評価もあるが、理想倒れに終わった民主党政権の失策と失望によって、政権を取る前までは二大政党制の可能性があった『民主党』自身が自滅した恰好になった。

東京都議選:自民59人全員当選 第1党奪還 民主惨敗

都議選の大勝は自民党の支持が一挙に高まっているというよりは、少しでも『現実味のある政策・地に足の着いたビジョン』を出しているように見える政党が、もはや自民党しか見当たらなくなり、票を投じたいと思える政党のバライエティが失われたということ(政治への無関心)の現れである。

金融緩和・財政政策によって財政悪化は着実に進むことになるが、株式市場を刺激する以外には実体経済の成長戦略に説得力がないアベノミクスは、長期的には公的債務を積み上げていくつかの株式市場の好況の波を残すだけで失敗する恐れも強い。

自民党中心の保守政権への懸念は、財政再建・国民所得への還元率を無視した経済政策にもあるが、それと合わせて、個人の自由権を軽視して国家全体の秩序・規律の強制力を強めようとする『憲法改正の内容(米国追随の集団安保と権利規制)・人権感覚の低さ・対外政策(中朝の軍事的・領土的脅威論を煽っての防衛費増額)』なども、衆参で3分の2以上の多数派勢力を得た場合には現実的な問題になってくる。

日本は有権者全体として『右傾化・民族主義化』しているとまでは言えないが、『消極的な政治選択(自民党以外に現実的な政策案を出しているように見える政党が少ない)』の結果として、民族主義・戦後レジームの否定の思想性を兼ねてから明らかにしている安倍晋三首相やその側近(ブレーン)を支える『右傾化(対外強硬策・各種の自由規制・日米同盟の戦闘面での協力行動)への迎合票』が積み増される可能性は高い。

『間接民主制・議院内閣制』では総論賛成、各論反対のような細かい民意は選挙制度や議会運営の仕組みの上から表明しようがないからであり、『経済政策・社会政策の評価』と『政治思想・歴史解釈の評価』を切り分けた精緻な投票方法などはないからである。

自民党は参院選公約で、政治思想や憲法観・歴史観、人権意識で対立(票の分離)を生み出しやすい『憲法改正(96条改正からの9条改正)・集団的自衛権の行使(米国の軍事戦略の実質的支援)』には殆ど触れておらず、国民負担の増加につながる『2014年以降の消費税増税の工程・骨太の財政再建策の実行プラン』にも言及していない。

『段階的な脱原発社会(原子力に依存しなくても良い社会)の実現』という先の衆院選の公約も実質的に取り消す形となり、『原発再稼働の実施に対する地方自治体の理解を求めていく』という原発継続政策と原発インフラの輸出の成長戦略を打ち出して方向転換を図っている。

成長戦略の見通しについては、2016年までに設備投資を年間70兆円規模にまで増加させる、2020年に農林水産物の輸出を1兆円規模に拡大させる、2017年までに約40万人の待機児童の保育の受け皿を整備する、10年間で一人あたりに換算した国民所得を150万円増やすという『理想主義的な見通し』を前面に押し出している。

しかし、これは2009年に民主党が大勝した際に大風呂敷を広げたマニフェストに近いもので、『民主党の短期的・直接的な給付』を『自民党の長期的・間接的な成長(国民所得増加への波及)』に置き換えただけという印象を受ける。仮に衆院任期中にアベノミクスが大きく瓦解するような事態になれば、解散総選挙を回避できない恐れも出てきて、今度は『自民党以外の政党への消極的投票』によって再び政局は大混乱に陥るかもしれない。

しかし、日本の政党政治では既に民主党や左派系政党の自滅によって、『保守・自由市場経済』か『リベラル・社会保障(セーフティネット強化)』かという構図は崩れており、『国家主義・強硬外交』と『自由主義・国際協調』といった対立軸も政党単位では見えづらくなっていて、有権者の積極的な投票意欲を刺激する材料・視点が見当たらないつらさと閉塞感がある。