アメリカ主導(米英仏)のシリア・アサド政権に対する軍事介入の可能性と混迷を深める中東情勢:1

アメリカ合衆国は国際軍事戦略の規範として、『大量破壊兵器(ABC兵器)の使用』だけは許さないということがある。如何なる理由があろうとも『核兵器・生物兵器・化学兵器』を戦争(内戦)やテロで使用した国家及び勢力に対しては、即座に厳しい軍事制裁を科す原則を貫くことで、大量破壊兵器の拡散を防いでその使用を不可能なものとしてきた。

無論、長距離弾道ミサイルを保有する反米国家が、核兵器を開発して使用した場合に限っては、アメリカといえども自国が直接攻撃されていない限りは国内に核を撃ち込まれる不安から、『即時の軍事制裁・核の報復攻撃』に踏み切ることは極めて困難だろう。

言い換えれば、アメリカが神経質なまでに化学・生物の大量破壊兵器の使用を絶対に許さない姿勢を示し続けているのは、『人道的な理由・義憤』もあることはあるが、『化学兵器・生物兵器のレベルでさえも使えば大変な報復・制裁を受けることになるぞ(核兵器は言うまでもなく完全な禁忌だ)』との睨みを効かせるためである。

“NPT体制”を崩そうとする『北朝鮮・イランなどの核開発』を強く牽制して、核を保有しても絶対に使うことが許されないことを分からせ、『欧米主導の磐石な世界秩序』が依然として機能していることを立証するために、『アメリカの軍事制裁』は欧米と日本、イスラエルなどから必要とされている側面がある。

9.11の米同時多発テロ後のアメリカは、『世界の多極化・非対称型戦争(対テロ戦争)の増加』と『米国経済の成長停滞・米国社会の貧困と格差の深刻化』によって、世界最強のスーパーパワー(唯一の超大国)としての影響力を漸次的に低下させた。

もはや『超大国』として国連や中東、アジアで黒を白ともいわせるような強制力を発揮することはできないし、米国は21世紀半ばには中国にGDPで抜かれる可能性もでてきて、“G2(米中関係)”の構造においても“中東紛争(イスラエル対パレスチナ+アラブ諸国)”の展開においても対応が後手後手になっている。米国の衰退機運にのっかる形で歴史的・宗教的な対立構造が『反米の思想・集団・テロ』として次々に芽吹いてきて、脅しつけて叩いても叩いても従わない勢力が世界各地に出現してきた。

『アメリカ・イギリス・フランス』と『中国・ロシア』の陣営で意見が分かれるのが常態化した『国連安保理』では、実質的に世界の平和秩序を担保する役割は果たしようがない。アメリカはNATO有志連合(米英同盟が主体)とユニラテラリズム(単独外交)によって、『アメリカが悪と認定する国家・勢力』に対して独自の判断で制裁を科したり独裁政権を転覆させたりする方針を採用し始め、『アフガン戦争・イラク戦争』を牽強付会な宣戦布告に基づいて戦った。

結果、米国の正義(大量破壊兵器保有の証拠が見つからずイラク攻撃の大義名分が崩れた)は揺らいで国力は更に疲弊することになり、戦後のアフガニスタンやイラクの統治体制も『親米・民主主義・平和秩序』に傾いたとはとても言えず、再び『反米勢力・イスラム原理主義(タリバーン)・テロリストの巻き返し』が起こっている惨状がある。前線の米兵にも大勢の犠牲者やトラウマに苦しむ者が出て厭戦気分が広まることとなり、当分は『地上部隊(外国領土への侵入・制圧)を投入する軍事作戦』を支持する民意は起こらないだろう。