日中韓の防空識別圏の重なりと偶発的な衝突リスク:国民・民間経済のための安全保障を各国は意識すべきだが。

防空識別圏(ADIZ)は領空・領土といった『排他的な国家主権』が及ぶ範囲ではなく、領空・領土の周辺にまで延長して恣意的に拡大した領域であり、防空識別圏を飛行する無届けの航空機を撃墜しても免責されるといった国際法上の根拠もない。

ADIZは『予防的な未確認機の識別』のために設定された領空・領土の周縁に延長された領域であるが、ADIZを設定する目的は通常、『領空・領土の侵犯や不意討ち(テロ攻撃)の予防』のためである。

特に、アメリカの9.11の同時多発テロ以降は、『アメリカ本土(領土)へのテロ攻撃』を事前に(領土侵入の前に)防ぐための防空識別圏の重要性が高まったが、現代の東アジア情勢では『日中韓が相手国の領土を不意討ちやテロ攻撃で攻撃する事態』は殆ど起こり得ないので、『防空識別圏設定による偶発的な攻撃リスク』のほうがかえって大きくなっている。

防空識別圏があることによって『安全・安心・民間機の自由航行』が保たれるのであれば良いが、逆に『自国の領土・領空を実際よりも広く見積りたい(領土周辺にまで拡張された予防ラインを張りたい)意図』がぶつかり合ったり、スクランブル発進した戦闘機同士が睨み合うことで不測の事態が起こるリスクの方が高くなっており、民間機もADIZがあることによって安心して飛ばしづらい心理状態になりやすい。

中国は『尖閣諸島を包摂するADIZ設定』によって、間接的に尖閣諸島を含めた海域も中国の領土であるという主張を行おうとしているようにも見えるが、『ADIZや軍事的威嚇による現状変更』は国際法上の根拠がなく、領有権の証拠にもならず無意味である。それだけではなく、航空機の自由航行が心理的・実際的に阻害されてしまうデメリットが大きくなって、中国側も損をする結果になるだろう。

韓国も中国のADIZ設定に対して『韓国のADIZ拡大』という対抗措置を取っているが、『領土問題の間接的な実効支配の傍証』としてADIZやスクランブルを用いることは国際法上も無効であり、『ビジネス・観光・貿易に関わる民間人の移動の自由』を阻害したり萎縮させたりするだけで三国共に経済的・時間コスト的な損失を蒙る恐れがある。

日本・中国・韓国がそれぞれミサイルや爆弾を搭載した戦闘機を、相手国の領土を爆撃するためにいつ飛ばすか分からないという非現実的な軍事的危機の可能性があるわけでもなく、ただ『これ以上は入ってくるなという恣意的な拡張されたライン』をそれぞれが引っ張って重ねているのだから、国が民間の活動・国民の安心感を抑圧して萎縮させているだけ(それぞれの国がADIZを設定して戦闘機を飛ばすことで国民・旅客機・経済活動が逆にリスクに晒されているだけでそのためのコストまでかかってしまう)という無益な対決姿勢である。

防空識別圏は『領空・領土の侵犯や不意討ち(テロ攻撃)の予防』のためだけに設定されるべきもので、『孤島の領有権の強引な主張・一方的な現状変更のための威嚇・航行(移動)の自由の侵害』のために用いられるべきではない。

日中韓は『民間機の航行の自由の確保(見張られていて撃墜されるかもしれないという心理的圧迫感の除去)』に同意して、領土への攻撃を抑止するというADIZの本旨(領土に暫時的・偶発的に接近する航空機を撃墜するためではない)に立ち戻る必要がある。

日中韓それぞれがADIZ設定の目的だと主張している『自国の領土の安全・保全』が、『国民の航行の自由や安全保障にまつわる不安(ADIZがあることによって逆に軍事緊張や安全保障のリスクが高まる本末転倒)』にならないような相互利益につながる交渉をして、中国は特に『領土問題(領土に関する主張)』と『ADIZ設定(一方的な領土拡張の意図・挑発行為)』を切り離した冷静な合意をすべきである。