DSM-5で精神障害の日本語訳が変更される。“disorder”の日本語訳が『障害』から『症』へと変更に。

DSM-5ではDSM-4までの『多軸診断・カテゴリー診断』が廃止され『ディメンション診断(多元診断)』が採用されるが、簡単に言えば『精神疾患か否か』より『精神疾患の度合い・重症度』を重視する診断という事である。

「障害」を「症」に 精神疾患の新名称公表

DSM-5ではパーソナリティ障害と発達障害を中心に『多元的なスペクトラム(連続体)』を想定しており、『人間は誰もが正常ではない偏った人格状態や精神状態を持っている』ことが前提になっている。どのくらい偏ったり不適応になっているのかという度合いが問題であり、それを%で表示しようという姿勢がある。

ストレスがかかったり喪失体験などがあれば、誰もが多かれ少なかれ気分が落ち込んだり感情が不安定になる。その気分・感情の悪化の度合いが10~20%なら軽症で、80~90%の重症患者とは必然的に異なる対応・治療になるというのがディメンション診断の考え方。自閉症スペクトラムなども典型的な症候の連続体である。

精神疾患の呼称については、精神分裂病が統合失調症となり、人格障害がパーソナリティ障害となったように、『語感・語意(漢字の意味)による差別や誤解、偏見』をできるだけ減らしていこうとする人権配慮の流れは顕著である。かねてから障害は『障がい・障碍』という別表記も為されてきたが、DSM-5では初めから『障害の訳語・漢字』を使わないで日本語訳を作ろうということが決められていたともいわれる。

精神障害と訳される英語は“mental disorder”だが、“disorder”は“disease”という明確な疾病ではなく、正常な機能・秩序が乱れるというややソフトな意味合いを持つ単語ともいう。

“disorder”を障害と日本語訳することは慣習・辞書的な意味・専門用語として定着してきたものだが、disorderの語意・語源からは『疾病(病気)と不安定な状態の中間』を指示するもので、必ずしも明確な病気・異常としての精神疾患(精神障害)と同義だとは断定できない疑いもあった。

語意論の議論はともかく、『障害』を使わない時に“disorder”の適切な普及した日本語訳がないという問題はある。DSM-5ではdisorderを『症』と訳して、disordersの複数形を『症群(症候群)』と訳すように決めるようだが、過去の精神医学では曖昧な状態像の言葉として不人気だった『症候群』の訳語が増えて復権する可能性もある。今までの精神医学はひたすらに正常と異常の境界線を定め、その人が精神の病気なのか否かという事に白黒つける事ばかりを重視してきた嫌いはあるが、患者・保険からも白黒の診断が精神医療に期待され続けてきた。