厚生年金の所得代替率が『現役世代の50%』を割り込むという予測:公的年金制度の終身保障を個人・世帯の貯蓄(積立)で賄えるか

公的年金制度は、国民の生存権や社会福祉に一定の責任を持たなければならない現代の国民国家の『鬼門』か。年金制度不要論もあるが先進国で高齢者を数百万規模で経済的に棄民すれば、国家・徴税の正統性が揺らぐ。

<厚生年金>「現役世代の50%」受給開始直後のみ

後続世代(現役世代の保険料)が受給者を支える『賦課方式』をやめて『積立方式』にすれば良いという意見もあるが、自分の支払った保険料の総額とその運用益だけで『現行の年金給付水準』を維持できるはずがない。所得代替率40%もカバーできないだろう。

自営業・フリーターなどが支払う国民年金保険料の月額約15000円は、確かに低所得者にとっては負担感のある金額だが、この金額を40年間支払ってもその総額は約720万円に過ぎない。運用益がどれくらいあるかにも拠るが、月7万円の年金給付でも102ヶ月(9年足らず)で積み立てた原資が底をつく。

厚生年金で月額約4万円でも、40年間で積み立てられるのは1920万円であるが、これは順調にサラリーマンを40年間勤め上げられた人の金額。少なからぬ人はどこかで失業したり給与が下がったりもするので、2000~3000万円を積み立てることは難しい。3000万円でも月額20万円受け取れば150ヶ月しか持たず。

公的年金制度の金融商品としての破格の魅力は『終身給付保障』である。これは民間の年金商品では殆どないし、あっても極めて給付金額が低く抑えられていて、月10万円の水準で65歳から終身受け取れるような商品はないはずである(よほど掛金が大きくて長期間納付する仕組みでないと保険会社が損をする)。

年金よりも自分の貯金のほうが信頼できるという意見は『年金制度の破綻・極端な減額や給付開始年齢の引き上げ』が確実なら根拠はあるが、『終身給付保障の魅力+今まで保険料を納めてきたのに自分の世代で終わらせたくないサンクコスト』がある以上、そう簡単に現行の年金制度を廃止する民意は集まらない。

いずれにせよ、大多数の国民は自分の所得からの貯金だけで、月額10~20万円以上のレベルの給付を約20年以上も維持できるほどの貯金をすることはかなり困難だろう。高齢でカネがなくなったら生存を諦めれば良いというのは、安楽死制度とも相関するが、未だ先進国でそこまで功利的な社会保障縮小に合意した国はない。