東海大四高(南北海道)の西嶋亮太投手のスローカーブ。トリックスターのような緩急・表情・明るさの受け止め方。

九国大付属高(福岡)と東海大四高(南北海道)の試合は偶然リアルタイムで途中まで見ていた。序盤はピッチャーの投げ合いで、双方にタイプの違う先発ピッチャーを出してきたが、九国大付属のほうが重さのあるストレートの力で押す投手、東海大四高の西嶋亮太投手は『球種の多さ・緩急の変化・コースの低さ』を売りにしたテクニカルな投手という印象を受けた。

東海大四高(南北海道)の西嶋亮太投手のスローカーブ。トリックスターのような緩急・表情・明るさの受け止め方。

西嶋投手は次にどんな球を投げてくるかが読みにくく、高めの甘い球を殆ど投げてこないが、スローカーブや表情・動きなども、高校球児らしい正統派のスタイルというよりは、トリッキーな陽性のムードメーカー(相手にとっては感情を揺らす刺激)といった感じである。

ストライクも低めぎりぎりが多くそれで見逃し三振を稼いだが、フォークのような低めに落ちる球も決め球として持つ。バッターとすれば低めの球がストライクにくるかボールになるか(落としてくるか)の見極めが難しい。フォークをまともに当てたバッターは殆どいないので、ボールになるフォークと思って見逃すと、その時に裏をかくぎりぎりのストレートが来て三振になるバッターが多かった。

西嶋投手はスリーアウトを取った後に戻る時にはほぼ笑顔でガッツポーズを決め、ほとんどの動作や表情はオーバージェスチャー気味である。自己判断で『三振』と思い込んで反射的に帰る態勢になった瞬間に、審判は首を振ってボールの判定、苦笑いしてマウンドに戻るなど、本来のプレイ以外のところで人物に注目させる要素を持つ。こういったキャラクターは高校野球では真剣味(相手への敬意)が足りない、態度・投球が目立つための演技ではないかいった批判も呼びやすいのかもしれない。

投球の合間でも、(リードしていた有利さもあるが)思いつめたようなストイックな表情は殆ど見せない、『楽しく投げきることが第一・俺はまだ余裕がある』という緊張を表に出さない笑顔でマウンドに立つ時間が多かったが、こういった笑顔の多い投手というのは負け勝負(大量にリードされてしまった側)でも結構見かけるような気はする。

3回あたりで九国大の2年生のピッチャーが1点を先制された所から、九国大はピッチャーの連係が逆効果になって打ち込まれたが、交代した左投げの投手は東海大四高の打線との相性が悪かった気はする。

左投げで右バッターに対峙する場合には、一般にインコースの際どい所にクロスファイアを何球か投げ込んで腰を引かせ、アウトコースでの強打を防ぐのが定石だが、このインコースへの深めの投げ込みが上手くできなかった影響で外側のストライクに入る球を叩かれやすくなった。

西嶋投手の気楽にのびのびやっているという陽気な感じが目立っただけに、これ以上点数を取られてはならない(どこに投げても打ち返されてしまう気がする)という悲壮感、自分本来の調子にいまいち乗り切れない焦燥感が際立った。

西嶋亮太投手のスローカーブは、球速の緩急の幅を大きくして130キロ台のストレートを早く見せる効果を狙ったものとされるが、『絶対に打ってやる』と緊張して前のめりになった相手の気勢を削いで脱力させ、いったん集中力を空回りさせる(次の投球に対して球速を速く感じる錯覚が起こり集中力も落ちる)という心理効果もある程度大きいだろう。

人によっては真剣勝負を望んで待ち構えているバッターに対して、パフォーマンスの雰囲気もある超遅球のスローカーブを投げるのは、『勝負を逃げている・反則ではないが非礼(姑息)である・投げ方や球速の遅さにも慣例的な常識の範囲がある』という反感や不快感を持つ可能性もある。

崩れないフォームで遅い球を意図的(戦略的)に投げる行為自体はルール違反ではなく、球速の緩急に落差をつけるのは昔ながらの投球法だと思うが、『正々堂々とした真剣勝負・爽やかなスポーツマンシップの実践』といったものを高校野球の教育理念として求めている人にとっては、『トリッキーな騙し技・小手先の技・策略的な心理戦・全力(真剣)ではない』というように受け取られる余地のある投球・プレイは良い印象を持たれにくいのかもしれない。

毎日厳しい練習を積んでいる高校野球の選手の目は、130~140キロ台の速さの球を無数に打ち込んで最適化されているので、甲子園に出場してくる平均的なピッチャーの球が速すぎて打てない(間に合わず振り遅れる)という事は殆どありえないが、遅すぎて体が自然に反応できない(拍子抜けする・早いタイミングで振って空振りする)という事は起こり得るからである。

140キロ台後半~150キロ台が出るような特別速い速球を投げられる投手を除き、球速の速さそのものが武器になりにくいので、西嶋投手は緩急の大きさとコースの低さによって打者を空振りさせたり打ち取ったりすることを持ち味にしているように感じた。

西嶋投手のスローボールに関しては、投球ホームを普段のホームと同一には保てない(スローボールを投げるということがバッターに事前に分かってしまいやすい)とも言われているので、スローボール対策を事前に立ててきたチームであれば、超遅球に狙いをつけられて叩かれる可能性もあると思うが。