韓国人のキム・ギジョン容疑者による米国大使襲撃事件:離散家族問題と韓米軍事演習への不満

キム・ギジョン容疑者は反米思想に基づく米国大使館への投石事件の前科もあるようだが、米国大使の講演会のイベントにおける身元チェックが甘すぎたように感じる。容疑者は、半島の南北統一や離散家族再会の障害になっているとして『米国・軍事演習』を憎悪していたと語っているようだが、北朝鮮に生き別れになった親族のいる離散家族か何かなのだろうか。

米大使襲撃 「いきなり襲いかかった」 攻撃の手緩めず「強い犯意」

日本や韓国のマジョリティは、米軍を『対中国・北朝鮮の盾(自国の用心棒)』のような位置づけで見ているので、米軍駐留に対してそれほど否定的ではないが、韓国の右翼(祖国統一論者・民族自決主義者)には『外国の米軍駐留』や『外交干渉(中朝への敵対姿勢固定化)』に強い敵意・屈辱を燃やす人がいる事を示唆した事件ではある。

東アジアの安定と秩序にとっての最適解は、日中韓朝の間の歴史的ないし軍事的な対立を除いた『アジア主義』だが、第二次世界大戦以後のアメリカの『アジア太平洋地域のプレゼンス』が絡むことで、アジア主義的な連帯は困難になる。日本は米中接近を警戒するが、米国はそれ以上に日本と中国が接近し過ぎる事を歓迎しない。

鳩山由紀夫政権の『東アジア共同体』は唐突な発案に見えたが、戦時中の日本も建前としては人種主義の対立軸を見据えた西洋帝国主義の防波堤として『大東亜共栄圏』を構想したのであり、『地域融和によるアジア主義の夢想』と『明治以降の脱亜入欧の現実』との角逐は近代日本のアイデンティティの揺らぎの根底に常にあった。

明治維新を成し遂げた近代日本ははじめ『アジア主義の連帯』を目指すも、李氏朝鮮・清朝の『アジア的停滞の深刻さ(アジア同盟による欧米諸国への対抗の不可能)』を見て、白人の先進文明の追随にシフトした。戦後も中国・朝鮮を一段下の文明国と蔑視する『非アジア的・欧米同一化的な自尊心』は根深く残った。