仕事と趣味の比率:ワークライフ・バランスが困難な会社・職種もあるという話か。

『大人になったらまず趣味を無くそう』という呼びかけは、プライベート重視の思いが強い現代では、一般的な働き方の原理原則としては賛同が得られにくいものだが、『仕事の現実』としては趣味が持てないくらいに時間・精神の拘束度が強い職場・仕事・人間関係も多くある。

■「大人になったらまず趣味をなくそう」 謎の仕事論にネット震撼「一体なんのために仕事しているんだ!?」

新入社員の約3割が就職後3年以内に脱落するのはなぜか、正社員をいくつか経験した後にフリーターとして漂流する人(いわゆる正社員として定着できずに職を転々とする人)が増えてくるのはなぜかという問いとも、『趣味(個人の自由時間)を切り捨てなければサラリーマンは勤まらないというアドバイス』はつながっている部分がないわけでもない。

端的に言ってしまえば、一日を仕事と趣味に綺麗に区切って、5時か6時まで仕事をしたら後は帰って、やりたい趣味や遊びを楽しむぞ~という考え方は、プロフェッショナルな雇用期間の長いサラリーマンからすれば『学生気分』と呼ばれるものなのである。

翻って、長時間労働や休日作業(帰ってからの残務整理)も厭わないハードワーカーは、近年は会社に軛をはめられた『社畜』と若者から揶揄されたりもしているが、残念ながら日本のホワイトカラーや顧客対応型の専門職は、ある程度以上は社畜的メンタリティー(自分の個人的な楽しみや遊びの大部分を捨てて一日のほぼすべてを仕事に打ち込みくたくたになって帰って寝るだけ)がないと長く勤まらない仕組みになっていたりする。

なぜある種の人はホワイトカラー系の昇進昇給のある正社員が続かないのか(続けたくても心身が拒絶反応を起こすのか)の理由の一つが、『アルバイトと正社員の拘束時間と責任感(ノルマ達成・時間外も構わずやってくる顧客対応)の極端な違い』だろう。

アルバイト経験がある人の仕事認識として『~時まで会社にいたら帰っても良い・帰ったらもう仕事を忘れて自由に楽しみたい』というフレームワークがあるが、時間できっちりと区切られていてその時間になれば仕事をすっかり離れてもいいんだというフレームワークでは、肉体労働(作業系)や時間給の雇用(アルバイト系)以外ではとても対応できないことが多いからである。

日本の会社の過半はその意味では、求人情報に出されている勤務時間や休日日数を守らないブラック企業としての側面を持ち、『一日の大部分を仕事以外のことができない程度には仕事に費やすルーティン』になっていて、そういった実態をまるで知らない学生がハードな職場に就職すると、会社の方針・職場の空気・職種の特性・上司の対応によっては『こんな毎日が何十年も続くなんて働くだけで人生が終わってしまう(本当にやりたい趣味や娯楽、勉強などに本腰を入れて取り組める時間なんてずっとないのではないか)』という不安感・理不尽さにとらわれて中途離職にもなりやすい。

ワークライフバランスが実現しやすいかしにくいかは、地方公務員の特定部署では実現しやすいが国家公務員の中央官庁の花形部署ではまったく実現できないというような違いもあるし、BtoCの営業・企画部、膨大なデータベースや書式・法律の付き合わせを要するような仕事、直接的に自分宛に顧客から対応を求める電話がくる仕事、少人数体制でのサーバーやWebサービスの保守管理などでは、まず5時、6時の夕方くらいの時間に帰れる日はまず来ないといっても良いかもしれない。

やめない限りは、毎日10~12時間程度の拘束があるとか、終電で帰るのがデフォルト(間に合わなければタクシーとか店舗に泊まり込むとか)とかいう職種・会社は意外に多かったりするので、仕事とプライベートをきっちり分けたい、一日のうちで仕事が終わったらもう仕事のことは考えずに趣味・娯楽にかまけたいという人は、どちらかというと頭脳労働・職務責任の伴わない時間できっちり終われる作業・労務系のほうが向いているかもしれない。

端的には『社会的評価・経済的収益・顧客対応の評価・業務遂行の最終責任』が絡んでいる仕事や会社ほど、正社員というのは学生が思っている以上に時間・身体・精神の拘束がきついというのは覚悟しておくべきで、いわゆる一流企業の中核部門や専門職種では片手間や余力の感覚では簡単にこなせない仕事ばかり(自分がその仕事そのものを好きになりきるか強いプライド・収入の必要性で動機づけるかしないと続かない仕事ばかり)である。

会社に所属している限りは長時間勤務が続いて夜中に帰る日ばかりになったり、帰れば疲れきって寝るしかない日々になったりしやすいが、就活をしている学生の中には『能力・センス・技術』はあっても、『自由時間の少ない一日の常態化(会社をやめるまではそのリズムが原則的に変わらない)』に耐え切れなくなってしまう人(仕事や職場そのものがある程度は好きになれないと、毎日の楽しみ・安らぎが何もなくなりいったんやめて派遣・バイトに流れたいという動機になる人)も少なからずいる。

仕事だけが人生ではないという価値観、仕事が終わったら趣味・娯楽・飲食を気楽に楽しみたいというバランス感覚は極めて現代的で大切なものだとも思うが、学校やバイトの時間・精神の拘束度よりは、会社の拘束度は一般に強いものだ(専門性・顧客・責任・ノルマのある仕事では帰ってからも頭の中のどこかに仕事の気がかりなことが残り続けたり関連する分野の勉強を続けたりしなくてはならない)という覚悟は必要である。

そういった職場・仕事においては、上記の『大人になったらまず趣味を無くそう』というアドバイスが生きてくるというか、実際問題として一定レベルを超えたハードワークが日常化している会社では、それ以外の趣味・遊び・思考などが体力的にも時間的にも集中してしづらい現実がまずあるわけで、『目の前のやるべき仕事・責任』だけに集中する生活習慣や思考様式を確立できないと(一日のほぼすべてを仕事に費やすのが当たり前の社風・上司などはまず絶対にワークライフ・バランスなどの価値観には迎合してこないので)、転職・休養するしかないという話になってくる。

日本ももっとワークライフバランスや長期休暇のバカンスを楽しめるような労働環境になってくれば、『一日の時間のオンとオフの使い分け』や『気持ち・モチベーションの時間単位の切り分け』が可能になって、職場の定着率や社員のメンタルヘルスも向上してくると思う。だが、現状の会社のカルチャーや価値規範では『学生気分・甘え・仕事の厳しさ・労働中心の人生の常識』として切り捨てられてしまうことのほうが多いし、『それなりの給料・待遇を得ているのだからこのくらい必死に働いて当たり前(雇って貰えていることに感謝すべきでこの働き方が嫌ならやめてもらっても良い)』という意見のほうが社内では優勢になりやすい。

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