就活と大学教育・価値観の多様化と経済格差の広まり:これからの時代を生き抜く働き方

大学は『学問・教養の府』であって就職予備校・資格取得の専門学校ではない。だが、理系学部の産官学連携の流れ、アメリカのビジネススクールのような起業家や企業幹部の養成(金融専門家養成)課程などを考えれば、一般的な学生のニーズは『良い企業に就職するための大学』にシフトしている。

良い企業という場合には、財閥系・政府系などの安定したレガシーな大企業、平均所得が高く福利厚生の良い上場企業(高収益企業)を指すことが多いが、近年はワーク・ライフバランスやブラック企業嫌悪の価値観から、『長時間労働・ハラスメントのない無理せずに働けるホワイト企業(職業以外の私的活動にも時間を割きやすい企業)』を多少収入が低くても希望する学生が増えている。

朝から晩までのハードワーク(営業・企画など対人折衝・顧客対応のある精神力を疲弊する業務)を回避して、夕方6~7時には帰りたい人たちの一部は、地方公務員や限定正社員、派遣社員、バイトなどにも流れていく。

厳しいことをいえば、現代の日本には8時間きっかりで終われる定時労働で、それほど強い精神的ストレスのない仕事であれば、日本の平均所得の約400~500万円台を稼ぐことはよほどの才覚・幸運に恵まれなければ難しい。短い時間で仕事を済ませたい、仕事はほどほどでアフターはゆっくりしたいと思えば、大半はアルバイト+α程度の給与水準に留まりやすい。

逆に、大卒者がイメージするオフィス街を拠点とするホワイトカラーの仕事ではなく、工場勤務・現場仕事(重機操作・長距離配送等)の正社員のブルーワーカーのほうが時間きっちり(残業代もきっちり支給)で400万円台以上の年収を稼ぎやすいかもしれない。

日本の大企業の採用面接では嘘でもいいので『会社のためなら何でもやる自分・業務遂行のために一日の労働時間など全く気にしない自分』を演出しなければまず採用されない、他の応募者の大半がそういう全人格的コミットの姿勢で来ているので、自分だけ手を抜いてワークライフ・バランス(そんなに無理はしません)を語っていれば競争で脱落して選ばれないだけである。

特段の事情なく労働時間が短いほうがいいとか仕事だけの人生ではなくて帰った後に他にやりたいこともあるなどと言うと、どれほど優秀なスペックがあっても『会社に貢献しそうにないやる気の乏しい人材(全人格的コミットメントを期待できないので雇いたくない)』としてまず雇われないわけだが、ここであまりに自分をやる気まんまんに偽りすぎると『採用時の印象・意欲』を維持できず早期に挫折・退職する人も多い。

企業に就職するというのは、就活の時にはそれほど深く考えない人も多いが、実質的にはその企業を辞めなければ『学卒後の人生の大部分の時間を過ごす場所・人間関係』を決めるということだから、なかなかに重たい選択と決断である。転職も増えているとはいえ、大半の転職は給料・職位が上がらない結果になるから、テクノロジーや知識、実績、人脈がモノを言う業種(能力に応じて転職しながらのステップアップのキャリアの選択肢が確保されている業界)でなければ、『辞めても同じ程度の待遇で雇ってくれる会社』があると楽観できる人は少ない。

現状の日本では経済面・ステータス面だけを考えれば、『初めに大企業(優良企業)・官庁』に入ってそのまま残り続けるほうが有利だが、現代人の難しいところは『ライフスタイル・活動領域・価値判断の多様性』が拡大したために、いくら経済的身分がある程度まで保障されていても、自らが拒絶反応を感じ始めた働き方や業種・人間関係などに数十年間以上にわたって留まることができなくなっている事だろう。

一方で、正規雇用と非正規雇用の格差拡大が問題となり、一部の専門家・技術者・知識労働者を除いては、いったん正規雇用をやめると、次に同等以上の待遇の正規雇用に就きづらくなっているので、就職・結婚・住宅ローン・育児・老後保障(年金)など経済的な人生設計を堅実かつシリアスに考える人ほど、会社を辞めることは簡単なことではなくなっている。

思い通りの企業に就職できないから自殺する『就活自殺』という笑えない現象も起こっているが、『生涯賃金・キャリア・人並みのライフプランをベースにした頭でっかちな人生設計』に囚われれば、早期に経済的側面における人生を先回りして失意・絶望・無力感に陥る若者がいてもおかしくはない。

グローバル競争と企業雇用の生活保障力の低下、社会保障制度の持続性の懐疑、個人の労働負担の増加とハードワーク回避というのは、『学生(若者)の人生設計や労働意欲、価値観』と相互に密接に関係している。

会社・国にひたすら滅私奉公して税・保険料を納めていれば老後まで保障されているという時代は終わりを告げようとしているが、それでも人は生きていくため、家族を維持するため、楽しむために働いて自分が最低限必要とするお金は稼がなければならない。『自分にとっての幸福・成功・楽しみの内容と基準』を整理してから、自分が短期間で潰れないような(仕事が原因で心身を壊さないような)ワークスタイルを確立すること、その会社以外でも何とか稼げるようなスキル・ノウハウ・経験を磨いて高めていくことが大切である。

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