日本の労働市場・雇用制度ではなぜ『人材のミスマッチ』が起こりやすいのか?:メンバーシップ型雇用の歪みの拡大

日本の雇用は『新卒採用+企業内キャリア』がメインで『企業外の学校・資格・経験』を重視しないメンバーシップ型である。スキル・成果による給与差は小さい。
「人材のミスマッチ率」が世界最悪の日本 企業が大学教育を軽視し、高スキル人材を厚遇しないから?

日本は大企業ほど『個人の突出したスキル・成果・発明価値(特許価値)』などを金銭面では評価しない。中村修二(カリフォルニア大教授)の『青色LED訴訟』では、青色LEDの発明対価は約600億円と計算されたが、勤務していた日亜化学工業はその発明に対して2万円しか報奨金を払わず訴訟の泥試合になった。

日亜化学工業は、会社が中村修二の『青色LED開発に必要な留学・環境・資材・安定給与』を保証していたからこそ、この研究が実を結んだ、中村氏個人が会社のバックアップなしで研究していても成果は出せなかったはずというもので、日本の平均的サラリーマンの研究者で通常の知財ならこの言い分が通るケースの方が多い。

日本のサラリーマン研究者は『発明対価の高額請求』より『終身雇用の安定』を選ぶからで、数億円以上(生涯賃金以上)もの価値がある発明ができる人材は殆どいないからだ。日本の雇用は、一度正規メンバーとして採用すればよほどの理由がない限り馘首しない『メンバーシップ型雇用』でそれが『スキル型雇用』を抑えてきた。

メンバーシップ型雇用とは、かつての日本企業の経営手法が『家族主義経営』と呼ばれたように、企業全体を擬似家族的な共同体のように見なし、一度正規メンバーにしたものを容易には切り捨てない代わりに、『最大限の忠誠心(副業禁止・長時間労働・会社を第一とする人生設計)』を要求するというものである。

安定した大企業や公務員のサラリーマンが、メンバーシップ型雇用の典型で、こういった組織では中村修二氏のような個人主義・競争原理を押し出した『正当な対価要求』は、共同体の相互扶助・仲間意識を崩すある種の利己主義者として煙たがられる。出来る奴が稼いでも独り占めせず組織全体を支える原資にすべきの考えは強い。

日本の雇用の『人材のミスマッチ率の高さ』は、安定した大企業・大組織が『共同体的組織としての統合性・協調性』を守っている為、新卒採用(企業内教育)やキャリアの転職(経験者採用)以外に『スキル重視の人材』を適正待遇で雇用・訓練する経路が殆どなく、いったん挫折した人の再学習の動機づけも弱まるからである。

企業が『メンバーシップ型雇用(正規雇用)の身分・給与水準』を維持し、年齢給の要素も残しているので、今でも新卒採用からの勤続やキャリア採用枠で働く人は、それなりに中流階層の生活水準にあるはずだ。『スキル型雇用』は賃金据置き・期間限定の非正規雇用としてアウトソーシングされ、能力だけで厚遇される事はない。

厳密には高度な専門職・技術職・管理職(コンサル職)であれば、スキル型雇用で不安定な身分でも、時給3000円以上のような求人もあるが、これらは一般の求職者・転職者には例外的なものだ。人材のミスマッチは『労働市場の流動性の低さ・待遇の良い組織のメンバー固定化(外部人材との競争原理欠如)』と相関する。

メンバーシップ型が良いか、スキル型・成果型が良いかというのは単純な二項選択式の問題ではない。今の日本の雇用問題や不満は『かつて大多数の労働者が正規メンバーになれて守られていた』のに、次第にそのメンバーシップから外され低賃金・不安定なスキル型・非正規雇用に移行する労働者の比率が高まっている事にある。

もちろん超個人主義でもやっていける労働単価の高いハイスキル人材なら、スキル型・成果型の非正規雇用はウェルカムだが(労働と休暇のメリハリがつけれるが)、現在の日本の労働市場は『初期の雇用階層の篩い分け』の影響力が強すぎ、正規と非正規の待遇格差にスキル面の根拠がないケース、中途者の競争機会の限定もある。

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