フランスのリゾート地ニースで起きたシンプルなトラックテロの脅威:連続テロに見舞われ怯え怒るフランス

14日夜、フランスの観光地ニースを襲った大型トラックを用いたテロで、84人が死亡し、202人の負傷者が出た。実行犯は19トンの冷凍トラックをレンタルして、人通りの多いパリ祭(フランス革命記念日)の花火大会の後を狙い、遊歩道「プロムナード・デ・ザングレ」を2キロにわたって暴走させた。

強力な自動小銃や爆弾を使用しない単身のテロでありながら、その被害規模は中東の連続自爆テロを凌ぐような大きさにまで拡大した。フランスは昨年の悲惨なパリ連続テロ事件を受けて複数回にわたって非常事態宣言を出し、テロ警戒レベルを上げていたが、トラックテロを防ぐことはできなかった。『人通りの多いイベント・商業施設』のテロ防止対策や警備の難しさを改めて浮き彫りにした事件である。

トラックテロを実行した男は、チュニジアとフランスの二重国籍を持つ移民のモハメド・ラフエジブフレル容疑者(31)で、トラックの暴走後に銃を乱射して、警官に射殺されている。

トラックが侵入禁止ゾーンに入って間もなく(まだ大勢の人がひかれる前に)、停止命令を無視する運転者に異常を感じた警察官が発砲して制止しようとしたが、警察の拳銃の威力が弱かったためか(あるいはただ射撃の命中精度が悪かったか、トラックのガラスが特殊強化ガラスのようなものだったのか)、高い座席にいる容疑者の運転を止めるほどのダメージを与えることはできなかった。

フランスのようなテロ多発状況にある国では、このトラックテロの一件を受けて、暴走する車両を運転するテロリストを速やかに停止させられる措置が求められるように思うが、テロ対策に当たる警察官の所持する銃器の(車の強化ガラスに対する)貫通力の見直しも必要なのかもしれない。暴走する車両が仮に装甲車両に近いような防御力を持つ改造車両だった場合、通常の拳銃で射撃してもほとんど制止させられないのではないか。

加害者は二重国籍を持つ『移民』であり、テロの動機に『フランスの風土に馴染みきれないムスリムの移民の疎外感・被害感情(被差別感)・逆恨み』が関係していたとすれば、移民問題やムスリム排斥の動きがフランスはじめEU先進国で再燃する危険もある。

モハメド・ラフエジブフレルには犯罪歴があり、テロ容疑者の監視リストに含まれていなかったという。当初はローンウルフ型の社会憎悪を抱いた単独犯と見られていたが、事件前に5人ほどの知人に『武器をもっと用意してくれ』などというメールを送っていたことから、何らかのテロ組織があったか共犯者・支援者がいた可能性も取りざたされている。元妻も何らかの事情を知っているのではないかということで事情聴取を受けているようだ。

IS(イスラム国)がニースのテロ事件を扇動したという犯行声明を出しているが、現時点では容疑者がISの関係者と接触して指示・命令を受けていたなどの証拠は出ていない。

大勢の死傷者が出たニースのトラックテロを、ISが政治利用しようとしているだけとの見方が強いが、EUの大国であるフランスが昨年来の連続的なテロ事件に見舞われたこと(単身のトラックテロで大きなダメージを与えられたこと)で、EU圏内にいる潜在的なIS贔屓(テロ思想共鳴)のテロ分子が行動を過激化させるリスクが高まっている。

フランスでは昨年の1月、ムハンマドを風刺する週刊紙を発行した出版社「シャルリー・エブド」を襲撃するなど連続テロ事件が起きた。11月のパリ同時多発テロでは、パリ中心部の劇場・飲食店が武装テロリストに突如襲撃され、一般市民130人が殺害されており、フランスは散発的なテロ攻撃によって非常事態の警戒を常に強いられ、テロと無関係な移民・ムスリムへの懐疑・怒りも強まっているようだ。

バングラデシュ・ダッカのテロ事件では日本人7名も犠牲となったが、中東・欧州を舞台としているISやイスラム過激派の絡んだテロ事件が、東南アジアのイスラム国にまで拡大の兆しを見せているのは不穏である。東アジアの極東にある日本も2020年の東京オリンピックが標的化されるリスクがゼロとは言えず、ニースのトラックテロのような車両暴走型のテロも改めて効果的な通行規制(長い直線道路を使いづらくする)や緊急措置の対応策を強化しておかなければならないのだろう。

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