映画『シン・ゴジラ』の感想

総合評価 83点/100点

今更だが、庵野秀明が監督を務めた『シン・ゴジラ』を見てみた。過去のゴジラと比較すれば映像のクオリティは圧倒的に高く、東日本大震災・福島第一原発事故の影響を受けて『放射性廃棄物の生態系へのダメージ』を大きなテーマに据えている。原子力発電所から海底に投棄され続けた放射性廃棄物を食べた海中の未確認生物が、DNAの突然変異を起こしてゴジラへと進化する。

東京湾のアクアトンネルが突如轟音を立てて崩れ大量の海水が浸水してくる。事故原因は不明だったが、専門家会議で地震・海底火山噴火の仮説が提示される中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)と生物学専攻の官僚(市川実日子)が『海洋巨大生物』による破壊行為の可能性を指摘するが相手にされなかった。

その会議の直後に、巨大海洋生物(ゴジラの初期形態)がその姿を現して東京・神奈川に上陸を始めるが、パニックに陥った内閣や政府関係者は形式的な情報収集・専門家会議に追われるばかりで、次々に街を破壊されて被害が拡大していく。内閣総理大臣(大杉漣)は自衛隊を防衛出動させるが、ゴジラ出没地域の住民避難が完了してないことから攻撃命令を急遽中止、手をこまねいているうちにゴジラは初期形態から更に進化して物理的攻撃が効かない『完全生物』に近づいた。

政府は緊急対策本部を設置してゴジラ対策に当たろうとするが、有効な局面打開ができないまま、完全生物となり内部に核エネルギーを蓄積させていく。核攻撃に相当するようなゴジラの全方位的な強力なレーザービーム攻撃によって、東京都心の高層ビルや橋・道路は破壊されまくる。国会議事堂も安全が確保できなくなったため、首相はじめ重要閣僚がヘリで新たな拠点に避難しようとしたが、ゴジラの攻撃によってヘリが爆破されて首相らは全員死亡してしまう。

政治主導の麻痺を防ぐために急遽、新内閣が組閣されるが新たに首相に指名されたのは事なかれ主義で指導力・決断力も高いとはいえない農水相(平泉成)であり、政権与党は首都崩壊の緊急事態においても党内の年功序列人事の枠組みから離脱できずにいた。ゴジラ対策の実質的な主力は長谷川博己、竹野内豊、高良健吾らとなる。

そこにアメリカの全権代理の石原さとみとの交渉も絡んできて、日本が自衛隊で自主防衛するか、米国が主導する国連安保理決議で核兵器を東京に投下するかの岐路に立たされる。長谷川博己や若手官僚、科学者たちには銃火器による物理的攻撃がほぼ無効な完全生物であるゴジラを止めるための秘密作戦があったが、米国が設定した核攻撃までのタイムリミットが迫る。

日本は米国・国連に対するわずかな引き延ばし策を講じながら、『三発目の原爆再投下』と『ゴジラによる東京壊滅』を防ぐために自衛隊総力と鉄道爆弾、タンクローリーを投入する。

ゴジラと自衛隊・戦車・電車が衝突する単純な怪獣映画としての映像的な面白さがあるが、『原発リスク・放射能汚染・科学技術文明の副作用』をゴジラの発生・進化と絡めており、『日本の政治指導力と危機対応力の欠如・首相指名や閣僚人事の非機能性・安全保障の主体性の弱さ・核兵器投下の悲劇の繰り返し』などの問題点も間接的に指摘するような政治的テーマも織り込まれた映画だった。

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