大学の人文学系の学部(文学・哲学)は何の役に立つのか?:大学教育の変質と産官学連携の学問の実利化

昭和後期まで大卒率は3割前後で、学部問わず大卒自体に『就職優遇・選良意識』があったが、今は大卒者が増えて実学・実利の学問の需要が高まった。

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人文学は『心の豊かさ・人間性の価値と世界観(社会観)・思考と知識の深さ』を涵養するために役立ち、基本的には『自分の頭で考えて価値を解釈する力+様々な物事に感動して自他の生きる糧にするセンス』を得るために役立つ可能性があるものである。理系と比べると自学自習できる分野も広いので、大学教育では議論がある。

文学・哲学を中心とする人文学は『インテリの読書人・知識人・文化人の養成』の側面もあったが、昭和期と比較すると『インテリゲンチャの教養主義・社会改革+体系的・権威的な読書人(知識人)』の相対価値が情報検索のネット社会や一億総評論家化の世相で暴落した影響も大きい。マルクス主義崩壊も読書人の挫折だった。

現代の大学教育は、かつての貴族子弟・有閑階級の教育機関の名残を失いつつあり、『学者・知識人(読書人)の養成機関』よりも『労働者養成機関』としての性格を前面に出して、『独立法人化・産官学連携』などで経済や科学技術、仕事・収入に役立つ学問以外は軽視される流れは止め難いものになっている。

人文学を人文科学と呼ぶ時には、少なからずマルクスとエンゲルスの科学的社会主義も含意されていた。人文学の知識・読書が政治経済の社会構造を革命的に変革していく(人文学が社会・歴史・国民を先導する)という学生運動的な興奮があった頃が人文学の権威のピークでもあり、その後は非実用の趣味・教養の扱いに近くなった。

端的には、1980年代くらいから、大学で人文学系の学部で学んで卒業しただけの人材はエリート扱いされなくなったという話でもあり、『難関資格・科学技術・基礎研究・産業応用』など企業や職業が直接的に求める内容の教育を大学で重点的にすべきであるという方向にシフトした。科学・医療・実利の重点化が転機だった。

物語的な思想や文学、大義・論理のある世界観で人々が動かなくなったプラグマティックな時代の到来とも言えるし、学生さんの特権階級意識が完全に瓦解して『一般労働者としての自分の能力・将来』を真剣に心配しなくてはならないほど雇用・収入環境も厳しくなった。人文学のロジック・感動よりも経済社会の圧力が増した。

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