大卒者の経済価値の変化と奨学金を返済する負担の影響:日本は学歴と潜在能力のみでは食えない雇用構造である

○大卒者の経済価値(見込み賃金)は大学進学率が低い社会ほど高く、学歴のみで官僚的な昇進システムに組み込まれる資格になる。現状は大学・学生の格差が開き、出世払いできる人の率が下がっている。

大学無償化で「出世払い」検討=豪州型参考に―人づくり革命

先進国は教育インフラ整備の政策として大学無償化に舵を切るが、その為には『無償化される価値(将来の支払い能力の確度)がある大学・学生』の選別がなければ、コスト対効果が低くなって大学支援金の返済率も低くなるだろう。1980年代以前のように大卒というだけでエリート候補で優遇される時代ならば良かったが。

日本の学歴社会の特殊性として『形式的な最終学歴』が重視され、『新卒採用・長期雇用のパスポート』のためだけに大学進学を目指す人が多いことがある。どんな大学でも大卒であれば高卒・専門卒よりも知的に優秀で企業で優遇されるべきという慣習的な価値観が根強かった。今後は大学教育の内容と専門性がより重要になる。

先進国では高学歴化・大学進学率上昇があるが、過半数が大学に行く社会になると、近代初期にあった『大卒=学歴で食える社会・企業のエリート候補』の見方は成り立たなくなるわけで『大卒者間の実力評価・待遇の格差』がより大きくなるのは必然だった。かつて高卒が当たり前だったのが大卒が当たり前に近づいた結果でもある。

○奨学金にせよ家・車のローンにせよ長期返済義務のある借金は人生の重荷だが、手持ちの現金がないのに必要なら借りて返すしかない。返済義務のない給付型奨学金は審査が厳しいか労務提供も含まれる。

奨学金返済、人生の重荷 子ども少なく結婚も遅れがち

新聞奨学生のように全額給付で若干の給料まで支払われる奨学金制度もあるが、学校の授業以外はほぼフルタイムの正社員で働いているかのように働き詰めになるので、いわゆるキャンパスライフの交遊・遊びとは無縁のストイックな大学生活にはなる。あるいは防衛大学のような防衛幹部養成を兼ねた給料が払われる学校に行くか。

奨学金返済があると結婚が遅れて子供も少ないというのは、相関関係としてはあると思うが、因果関係としては所得水準の低い企業に就職したか(期待していた仕事・収入が得られなかったか)、失業・転職で待遇が悪化したか、非正規社員・フリーターになったかで『所得減+奨学金の重荷』が原因になった可能性も高い。

専門家でない平均的な能力の人が、大学進学を経済的恩恵につなげるには新卒採用である程度の規模の会社・公的機関に就職してそこを辞めないことが有利になるが、奨学金返済があってもなくても『新卒採用・正規雇用・昇進昇給ありの長期雇用のキャリアパス』から外れると収入が減ったり結婚・子育ても困難になりやすい。

奨学金を借りるということは、純粋に特定分野の学問をしたいというよりも、学歴取得による何らかの社会的・経済的メリットを得られると考えているということであるが、現状の日本の学歴社会・雇用慣行では新卒採用・20代のキャリアから外れると『大卒の肩書きのみ』で得られる直接の給与額はさほど大きくないだろう。

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