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アメフト部員が熱中症で死亡。『炎天下のスポーツ』も状況によっては延期・中止を考慮。

連日35~40度を超えるような猛暑が続いていて、冷房を入れない室内でもそれ以上の気温になることもあるが、『猛暑日の屋外での激しいスポーツ』は練習にせよ試合にせよ十分な注意が必要か、気温・日差しが極端に強い時には思い切って中止すべきなのかもしれない。

<熱中症?>アメフット試合中倒れ2日後死亡 大阪の強豪校

猛暑日には体温調節能力が低下した高齢者や未熟な子供を中心に、1000人以上が救急搬送されて数人が死亡するという統計的な傾向がでていることから、猛暑日の屋外やクーラーなしの室内では『年齢・体調・持病(循環器系・呼吸器系など)』によっては誰が倒れてもおかしくはない。

熱中症は単純にこまめに水分・塩分の補給をしていればならない病気ではなく、どんなに普段鍛えていてこまめに水分を摂っていても、『長時間の強烈な直射日光・大量発汗・体温上昇』などがあると、わずかな身体のコンディションや潜在的な持病の存在によって熱中症の症状が出るリスクがある。通常は、ギラギラ照りつけるような直射日光をまともに浴びながらの状態で、激しい運動を続けることはどんなに練習を積んでいてもハイリスクな行為である。

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乳がん予防のための遺伝子検査と乳房(乳腺)の予防的切除:アンジェリーナ・ジョリーの事例

乳がん予防切除の効果のエビデンスは確立していないが、遺伝子検査の結果と発がんリスクとの相関をどこまで有意だと信じるかによって『予防的な乳腺・乳房切除』の意義は変わってくるように思う。

がん(癌)には家族遺伝性があり、母親・姉妹が乳がんを発症していて遺伝子の変異もあれば有意に発がん率は上昇する。だが、それでも確率論におけるリスク上昇であって(家族が乳がんであってもそのリスクは2倍程度の上昇範囲である)、切らなければ将来絶対に発症するとまでは言えず、検査による『遺伝子変異の確認』のみの段階(家族因がなく自分も発がんの既往がない)では切って予防するというのは一般的ではないだろう。

乳房切除というのは『身体的な負担・違和感』もあるが、それ以上に『精神的な苦痛・女性アイデンティティの混乱』をもたらす可能性もあるものであり、既に片方の乳房に乳がんが発症したなど『次の発がんリスク』が相当に高くない限りは、少しでもリスクがあれば切除したほうが良いかは個別の価値観(リスクの見方)に拠るものだ。

世界的な知名度のあるハリウッドセレブのアンジェリーナ・ジョリーが、予防的な乳房切除と再建術をしたことで話題になっているのだが、彼女の場合は一流の医療スタッフの手厚いアフターフォローを受け続けられることが確実な経済力の裏付けがあり、『切除を決断したリスクの高低やその根拠(遺伝子・既往歴に関する極めてプライバシーな情報)』については報道でも十分に明らかにされていない。

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新型うつ病はなぜ増えたか2:消費文明の爛熟とストレッサーとしての仕事の受け止め方

新型うつ病増加の環境的要因としては、『社会的規範・家父長的権威の弱体化』や『個人の自由の範疇の拡大』などによる『理不尽・不条理・しごきに耐えられるストレス耐性の低下』も考えることができる。学校を卒業して仕事を始めるまでのメンタリティが文明社会の利便性・楽しみを享受するだけの『消費者意識』に固定されやすく、『生産者・サービス提供者としての意識(それに伴うストレス状況の繰り返し)』にうまく適応しづらくなっているという問題も指摘される。

新型うつ病の増加には、本人のストレス耐性が低かったり勤勉な継続性・義務意識にやや欠けていたりという要因も当然あると思うが、『消費文明社会の爛熟・拝金主義や格差社会』によって商品・サービス・娯楽・ネット・情報を絶えず小さな頃から受け取り続ける社会環境になったことが、『仕事・職場・上司部下(先輩後輩)のような関係』を“最後のストレッサー(数少ない思い通りにならない不満な事柄)”として受け取りやすい個人を増やしてきたという側面もあるだろう。

現代の先進国では、仕事以外の社会生活の諸側面における『快楽性・娯楽性・自由度』が高まっている一方で、『仕事の分量・負担感』は過去に比べてほとんど減っていないどころか、現在のほうが主観的に負担や拘束を苦痛に感じる度合いが大きくなっているというアンケート調査もある。特に自分の適性や能力発揮が生かされていない仕事状況において、仕事におけるストレス耐性・忍耐力は低下しやすくなり、逆に過剰適応(義務感・責任感の過剰)による燃え尽きで過労自殺や重症の精神障害にまで追い込まれる人もいる。

また現代の仕事を巡る格差では、『主観的に面白くて刺激的な発展性(創造性)のある仕事』をしている人ほど所得が高くなりやすく、『主観的に面白みがなくて義務的な発展性(創造性)のない仕事』をしている人ほど所得が少なくなりやすい傾向があったり、『金銭の大小よりも時間・自由度を重視する価値観』が広まっていることもあって、『忍耐・我慢・継続の美徳』を裏付けていた終身雇用・年功序列の実利がなくなってきていることも影響する。

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“新型うつ病”はなぜ増えたか?1:新型うつ病の特徴とDSMの操作的診断

出社無理でも…旅行や趣味はOK 若者に増える「新型鬱」

従来の『うつ病(気分障害)』と『新型うつ病』との違いを上げると以下のようになるが、古典的な従来のうつ病(大うつ病性障害)とは脳の機能障害としての『内因性うつ病』のことである。『心因性うつ病』というのも確かにあって、精神的ストレスや苦痛なイベントが発症のトリガーになることは認められていたが、基本的には『心理的原因がなくても発症されたと思われる精神病』の位置づけであった。

1.従来のうつ病の病前性格は、テレンバッハのメランコリー親和型性格や下田光造の執着性格であり、『生真面目・秩序志向・他者配慮性・自罰感』という仕事・社会規範や苦手な人間関係に過剰適応しようとして、そのストレスや疲労に耐え切れずに発症する燃え尽き症候群のタイプである。

新型うつ病(非定型うつ病)の病前性格は、自己愛性パーソナリティや境界性パーソナリティ、回避性パーソナリティなど『パーソナリティ障害の前駆的・類似的な傾向』を示すことが多く、『承認欲求の強さ・自己主張性・ストレス回避性(打たれ弱さ)・他罰感』といった仕事のストレスや煩わしい人間関係に少し適応しようとするが、適応することの苦痛に過敏に反応して発症する適応障害型のタイプである。この病前性格傾向は、自己愛・消費・自由が称揚される現代社会ではむしろマジョリティを形成するものである。

2.従来のうつ病は『食欲・睡眠欲・性欲(恋愛欲求)』の生理的欲求が抑制されて、仕事も遊びも全てに対して意欲がなくなり興味を失う『全般的退却・精神運動抑制』が起こる。生物学的原因・素因を有する脳の機能障害を感じさせるものである。

新型うつ病は『食欲・睡眠欲・性欲(恋愛欲求)』の生理的欲求が抑制されるよりもむしろ促進され、『過食・過眠・性欲亢進』などの症状がでやすい。日内変動も、従来とは逆で朝に気分が良くなり、夕方に落ち込みやすい。好きな遊び・娯楽はできるが嫌な仕事などはできないという『選択的退却・部分的な精神運動抑制』が起こる。心理的原因を引き金とするストレス反応性障害を感じさせるものであり、かつて『抑うつ体験反応』と呼ばれたものの軽症例のようでもある。

3.従来のうつ病は病識がなく、体がだるくて気力が湧かないという病識があっても身体疾患の悪化として自分の体調を解釈する向きが強いため、精神科・心療内科の受診動機は極めて弱い。『うつ病の啓発的な書籍・リーフレット』などにも目を通したがらず、悪く言えば『うつ病なんかは精神が弱い人間がなる病気で自分がなるはずがない(うつ病であるということを恥ずかしく思う)』という精神疾患に対する偏見・差別のような認識を潜在的に持っていることが多い。

新型うつ病は病識があるだけでなく、事前に専門書籍やウェブなどで『うつ病の症状・特徴・治療法と薬・予後』について、プロに近い十分な知識・情報を調べ尽くしていることが多く、抗うつ薬・睡眠薬の名称や効能、官能的(知覚的)実感についても相当に詳しいことがある。自分の心身の不調をうつ病やパニック障害などの診断基準に当てはめて感じることも多く、精神科・心療内科の受診動機は高くて、心理的な悩み・人生のつらさに関する話を聞いてもらうことも好きである。うつ病はじめ精神疾患に対する偏見・差別などはなく、むしろ現代はストレス氾濫による精神疾患増大の時代であるという認識を持つ。

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