アニメ『HUNTER×HUNTER』のキメラアント篇の感想

冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』は読んだことがなかったが、huluで見ていたらドラゴンボール的な強さ(念能力のバリエーション)のインフレの乗りにはまって、キメラアント篇の終盤の途中まで早送りしながら見てしまった。

『キメラアント』というのは、人間を食糧として捕食する巨大な昆虫の怪物なのだが、蟻からありとあらゆる種の動物や節足動物へと突然変異を繰り返していき、一匹の女王蟻(唯一の生殖能力を持つ)を頂点とする『巨大な軍事国家NGL』を建設する。

昆虫は遺伝子のプログラムに沿って本能的に行動するだけであり、その行動原理は『全個体の母である女王蟻への絶対的忠誠』と『NGLの領土拡大・食糧となる人間の捕獲』のみで徹底しており、人間のいかなる情緒・倫理をも超越した残酷さ(利己主義)を示す。

自らよりも劣った他種の個体を食糧として管理するというのは、人間の他種(牛・肉・鶏)に対する扱いのアレゴリー(類比)として皮肉が効いているが、自然の摂理に従うのみのキメラアントにとって『知能の高さ・感情の有無』は生命の価値とは何ら相関していない。

女王蟻は次世代の王となるべき強力無比な個体を身ごもっている。『王』を出産するための膨大なエネルギーを人肉団子から得ているが、女王蟻は我が子である王を愛する感情は持っており、王を補佐する側近となる『特殊な三個体の親衛隊』を生み出している。

猫型のネフェルピトー、蝶型のシャウアプフ、魔獣型のモントゥトゥユピーの三個体の親衛隊は、驚異的な念能力と特殊な攻撃形態を持ったキメラアントであり、人間の討伐軍であるゴンやキルア、モラウ、ナックル、シュートらと対決することになる。だが、母胎から生まれでた残忍な王は、母親である女王蟻をもはや用済みであるとして瀕死の重傷を負わせ切り捨てる。

キメラアント篇の面白さは、人間を食糧として狩猟捕獲している冷酷無比なキメラアントの王とその親衛隊が次第に『人間的な感情』に目覚めていく所にある。『王』は驚嘆すべき学習能力の持ち主であり、『戦闘能力以外のありとあらゆる分野』で人間の一流のプロや王者、専門家を打ち負かしては殺戮を繰り返し、自分自身よりも優れた個体がこの世界に存在しないことを立証しようとする。

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豊かな先進国の自殺率は途上国よりも高いが、なぜ日本は特に高いのか?:システムのレコードと他者(世間)の目線

現代の先進国は医療水準の向上と栄養状態の改善、交通事故死の減少傾向(飲酒運転など交通違反厳罰化・速度の出ない渋滞の慢性化)によって、『乳幼児死亡率・病死率・事故死率・餓死率(戦死率)』が下がるので、必然的に『自殺以外の死因で死ぬ若者の比率』は減ることになる。

生きることそのものが目的化できるほどに、『戦争・飢餓・病気・虐待(身分差別)による淘汰圧』が十分に強い社会では、『動物的な生存・生殖の本能』が先鋭化しやすく、自殺という行動選択が現実的なものとして考えられる頻度が少ない。

学校教育や知識教授による自我意識の肥大も抑制され、大多数の人が自分と同じように貧しく苦しい境遇で必死に生きているため、『自分が何者であるのか・自分の人生がどのようなものなのか・なぜ生きなければならないのか』の自省的・意味論的な思考が人生の中心になる余裕そのものがない。自意識の拡張(優越・豊かさ・見栄への欲)や周囲との差異がないために、『生きるために生きることのハードル』が低くなるので、自殺するリスクは必然的に低下していく。

先進国の学校教育の多くは『生きる力・サバイバル力』よりも『競争する力・専門性を身につける力』と相関するものなので、『学校・企業・役所などの決められた帰属(関係性)と枠組みから逸脱した個人』は経済的にも精神的にも脆弱となりやすいが、先進国では学校・企業・役所と相関しないコミュニティ(ゲマインシャフト)や持続的な自営業は概ね衰退しやすくなっている。

バブル崩壊後の一時的な自殺の急増は、『企業の雇用・社会保障の枠』からの篩い落としから立ち上がれなかった人たちの影響が考えられるが、2000年代前半までの自殺率の高さは、高度経済成長期から日本経済の最盛期までの『一億総中流社会の意識との一体化(人並みのライフステージの進行から脱落することの恥・恐怖と自己否定)』によってもたらされていた側面がある。

2000年代後半からは、格差社会の進展が客観的なジニ係数というよりも『若年層の雇用格差・出身家庭格差・学力格差(意欲格差)の意識』によって露見するようになり、どんな家(親)に生まれても努力すれば中流階層のライフスタイルに大多数の人がありつけるという『一億総中流社会の幻想』が崩落した。

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