『国民共通番号法案(マイナンバー法案)』の利点と問題点

国民全員に社会保障と税の共通番号(マイナンバー)を割り当てる『マイナンバー法案』が、衆参議院を通過して成立した。

共通番号法が成立…社会保障と納税、一元管理

2015年10月に各個人にマイナンバーが通知されて、16年1月からマイナンバー制度の運用が始まるということだが、『顔写真つきのマイナンバーカード』は希望者だけが役所に赴いて作成できるもので、国民全員に機械的に配られるものではない(ただし社会保障料の納付と納税はマイナンバーで処理されることにはなる)という。

国民共通番号法案(マイナンバー法案)の利点は、社会保障(年金・介護)や納税の情報が一元化されて一枚のカードあるいは自分の固有番号で全て対応できることで、『行政サービスの利用手続きの利便性』が向上するということである。

理想的な形としては、すでに住民票・印鑑証明の発行がカードで機械からできるようになっているように、各種の行政が発行する証明力のある公的文書がカード一枚で機械から発行(プリントアウト)できるようになることである。

その結果として『行政コスト・公務員人員』の大幅なコストカットができるとされているが、現状で一番手続きが面倒くさい『戸籍謄本・戸籍抄本の発行(本籍がある役所でしか取扱いができず情報化社会の現代においても物理的な郵送のやり取りの手間がかかる)』がマイナンバーのカードで自動的にできるようになるという話までは聞かない。恐らくそこまでの改革はしないのではないかと思う。

甘利明経済財政担当相は24日の記者会見で、『世の中で情報化、デジタル化が進む中、番号法はそのインフラになる』という導入の意義を強調したが、マイナンバー
や共通番号カードで実際にできることは『公的年金・介護保険・税金の納税情報のウェブでの確認』や『行政への社会保障の申請手続きの電子化』くらいで、それ以外の実際的なメリットは乏しいようにも思える。

行政側のメリットとしては、『徴税効率の上昇・公平な課税ベースの把握(自営業者の所得補足率向上によるクロヨン問題の解消)』などが上げられるが、マイナンバー制度で良く分からないのは、『個人の金融資産・銀行口座』を直接的に国家・税務署・年金機構がチェックできるようなシステムまで組み込まれるのかどうかという点である。ニュース報道ではこの部分が意図的に報じられていないが、確実な資産補足と徴税というのであれば、国や公的機関が個人の通帳・口座の残高や数字の増減をいつでも見られるということではないかとの疑念が起こる。

脱税や所得隠しを防止できますよというが、個人に番号を割り振るだけでは通帳の中身までは見えないはずなので、これは実質的に『国家・税務署が随時的に口座の中身を番号と紐づけて監視できるシステム』を意味するようにも読めるが、脱税と無縁でも銀行口座の中身(出し入れ・残額)を国や税務署から常時チェックされているというのは気分の良いものではない。脱税や所得隠しを疑うに足る十分な証拠などがあれば話は別だが、脱税の合理的・状況的な疑いもない個人の口座情報を関係する公的機関が自由にチェックできるというのには反対である。

逆に、個人の番号を紐づけられた『所得証明書・納税証明書』をチェックできるだけという意味であれば、その制度設計では脱税や所得隠し、資産隠し(生活保護不正受給)を防止することはできないと思うのだが、マイナンバー法案の実質的な権限(個人の金融情報を関係官庁が正当な嫌疑や令状なしにどこまで自由に閲覧できるのか)がどこまで強いのかが分かりにくい。

マイナンバーの利用範囲は、本人の同意の上で民間企業・民間サービスにも拡大していく方針とされているが、『運転免許証のような本人確認』と所得水準を証明できる『所得(納税)証明書のようなステータス確認』との双方ができるようになれば、確かに『ローン契約・融資(借入れ)・賃貸物件の契約』の与信をスピーディーに確認しやすくなるというメリットは大きい。

日本では運転免許証と健康保険以外の無料で保有できる身分証明書がなく、運転免許のない人(高齢になって運転免許を返却する人も含め)が失業・退職すると身分証明のコストは大きくなる。そのため、誰もが顔写真つきの公的な身分証明書を安価で保有・維持できるという『マイナンバーカード』には一定の意義があるが、同種の『顔写真つき住民基本台帳カード』がeTAXで確定申告をする自営業者以外にはほとんど普及しなかったという問題を繰り返さないかどうかも焦点になる。

今、民法改正で議論されることもある『連帯保証人制度の廃止・個人単位の単独契約の原則化』の後押しになる可能性もあると思う。一方、一つの固有番号で自分の社会的経済的なステータスをすべてチェックできたり公的な行政への申請ができるシステムは、個人情報保護に万全のセキュリティを尽くして、更にもし『なりすまし・不正利用』がされた場合の原状回復・補償(アフターフォロー)の方針も立てる必要がある。