三鷹市の女子高生殺人事件1:元交際相手のストーカー化の問題と人の見極め

東京都三鷹市の自宅前で私立高校3年の女子生徒が、元交際相手だった21歳のハーフの男性に刺殺された事件は、付き合っていたり結婚していた相手がストーカー化した後に、適切な重大犯罪の回避(=加害心理の懐柔・制御)の対応が上手くできずに殺害されてしまった事件のように見える。

昨年はストーカーの相談件数が2万件を超えて史上最多となったが、その内の約7割が元配偶者・元交際相手であり、友人知人を含む面識者となると約9割を占めている。基本的には『過去に一定以上の付き合いのあった相手』が別離・離婚に納得できずにストーカー化するケースが大半である。

『別れるための話し合い』が平行線を辿ったり感情的に激高したりする過程を経て、『対応してくれなくなった相手』にしがみついたり会うことの強要・脅しをし始めることで、元配偶者・元恋人が『恐怖感を感じるストーカー』として認識されてしまうようになる。

殺人・傷害など『物理的な危害』を直接的に加えてくるケースは全体では少数派で、『面会や交際の要求・繰り返しの電話やメール・つきまといや監視』といった迷惑・強要の行為が圧倒的に多いが、『決定的な別離の通告・法的な対応での威嚇(警察への相談)』はストーカー化した相手の心理状態や性格によっては危険な結果を引き起こすリスクが生じる。

今回は、三鷹警察署はストーカーへの対応は所定の手順を踏んでいて問題はなかったとしているが、警察官の声で『容疑者の携帯電話』に警察署まで電話をかけるようにとのメッセージ(留守電)を残した対応は、間接的に『殺害の動機づけ(もう何をしても復縁は無理で殺すしかないという身勝手な思い)』を強めた恐れがある。

しかし、容疑者男性の供述内容によれば『数日前にナイフの購入をした』とあることから、その時点で復縁できなければいずれは殺害する意思は強かったと見られる。警察に相談していなくても(警察官が留守電を残さなくても)、被害者やその家族が相当に絶妙なコミュニケーションで容疑者の殺意を弱められた幸運なケース以外では、やはり結果として殺害されてしまった可能性が高いだろうと思う。

被害者の女子高生の携帯電話の番号から、警察が時間を変えて何度か電話を掛けてみても全く電話にでなかったことから、容疑者の男は既に『被害者女性との復縁の可能性を諦めて逆恨みの殺意に転じていた』か『被害者が自分からかけてくるはずがないと思って親・警察からの電話だと察知していた』かだったのではないか。

ストーカーがどこまでの加害行為を仕掛けてくるかの危険度を、客観的に評価することはかなり難しく、確実に最悪の結果を回避しようと思えば、『自分の所在を完全に分からなくする・現住所を変えて避難する』という方法しかないだろう。

逆に言えば、『この人は多少しつこくすることがあっても直接の暴力や危害を加えることまではしない(何を考えているか分からないとか何をするか分からないとかいう恐怖感までは感じない)』という危険度の評価ができる相手であれば、ストーカー化する以前に有効な話し合いをして同意の上で別れることが可能だとも言える。

ストーカーとは『言語的コミュニケーションが通用しなくなった相手』であると同時に『自分の伝えている意思・感情・結論を何が何でも受け入れない相手』であるから、現象面だけに着目すれば『まともに言葉が通じない相手(自分の欲望や感情が通らない限りは納得しない相手)』なのである。

ストーカー化するような粘着質な相手と付き合ったり結婚したりするなという意見もあるが、『人の本質を見る目』というのはそうそう簡単に養えるものでもなく、基本的には(相手の一方的な押しに負けて何となく付き合うようなケースを除いて)『その時点の自分の性格・状況・価値観・生き方』と似通った相手を引き寄せてしまうものでもある。

何よりストーカーになるような相手であっても、『結婚・恋愛が上手くいっている時期』や『相手が自分と別れないで親しくしてくれる時期』に限っては、人並み以上に一途で尽くしてくれたり優しく接してくれたりすることは少なくないので(執着心・独占欲が良い方向で作用してしまうこともあるので)、付き合ってから(結婚してから)暴力を振るうようなDVよりも事前の性格の見極めは難しい所がある。

ストーカーやDVの問題・性格について深く掘り下げた会話をしてみたり、付き合いの浅い段階で別離のストレスをかけてみるというのも一つの方法であるが、そこまで注意深く思索的・懐疑的な人には、そういった潜在的なストーカー予備軍の男はそもそも『相性の悪さ・話題の合わなさ』を感じて近寄ってこないかもしれない。