映画『るろうに剣心 京都大火編』の感想

総合評価 90点/100点

戊辰戦争から10年以上の歳月が流れ、西郷隆盛の西南戦争で“殺人のための剣”を生業とする士族の旧弊な残党勢力は敗れて、歴史の表舞台からの退場を余儀なくされた。武士の特権である帯刀を禁止された四民平等の明治の世、幕末動乱期の薩長のように暴力で地位や勢力を得ることは不可能になり、腕のある人斬り・剣客・無法者といえども刀を捨てて近代的な明治維新に適応するしかなくなったのである。

戊辰戦争で官軍(長州藩)について要人暗殺を繰り返した“人斬り抜刀斎”こと緋村剣心(佐藤健)だが、剣心の後に人斬りの暗殺者として官軍に雇われたのが志々雄真実(ししおまこと・藤原竜也)だった。志々雄真実は剣心に匹敵する剣術の使い手で、戦争では無数の敵兵を斬り殺し、政変では多くの幕府の要人を暗殺して、討幕に大きな貢献をした。

だが、新政府の大義名分を失わせる暗殺の秘密を知っているということで、志々雄は突如味方から裏切られて斬り付けられ、その身体に油を掛けられて激しく燃やされた。奇跡的に一命を取り留めた志々雄真実だったが、容貌の原型を留めない程の大火傷を負い、ケロイドとなった全身に薄汚れた包帯で巻きつけ、明治政府に対する『復讐の鬼』と化す。

『政府転覆・弱肉強食の新世界(弱者の自然淘汰)』のために、新しい太平の世から爪弾きにされて腐っている剣客や無法者を集め、反政府活動を行う一大勢力を結成した志々雄真実は、次々と地方の村落を勢力圏に収め始めた。危機感を募らせる明治政府は、繰り返し討伐軍を編成して志々雄一派が支配する村に差し向けるが、その全ては返り討ちに遭ってしまう。元新選組・三番隊隊長の斎藤一(江口洋介)でさえも、火計の罠にかかって部下を全員焼き殺され、遂に志々雄を討ち取ることはできなかった。

政府中枢の大久保利通らは、狂気的な怨念・暴力に駆り立てられる志々雄真実に対抗できるだけの剣術の腕を持つ緋村剣心に、志々雄討伐の白羽の矢を立てて依頼する。殺人剣を捨てた剣心は、神谷薫(武井咲)が師範代を務める道場で、高荷恵(蒼井優)や相楽左之助(青木崇高)らと平凡な日常を過ごすようになっており、神谷薫から強く反対されたこともありいったんは依頼を断る。

だが、大久保利通暗殺の一報に触れ、志々雄一派が支配している村で行われている弱者の虐待・惨殺・脅迫(村人同士の争いのけしかけ)を目にした剣心は、自分の後釜として『影の人斬り』の任務を引き受け、政府に裏切られて復讐の悪鬼と化した志々雄に一定の責任を感じ始める。剣心は京都にいる志々雄真実の討伐に乗り出し、志々雄が実行しようとしている『京都大火の謀略』を阻止しようとするが、志々雄の本当の目的は首都東京の陥落にあった。

剣心の命を付け狙う者として、幕末に江戸城警護をしていた御庭番衆の頭・四乃森蒼紫(しのもりあおし,伊勢谷友介)も登場する。相次ぐ戦争で人の心を失い『修羅』と化した四乃森蒼紫は、戦争に敗れても御庭番衆こそが最強であることを証明するため、幕末最強の剣客と謳われた人斬り抜刀斎(緋村剣心)を斬り殺すことだけを生き甲斐としている。

剣心の逆刃刀を盗んだことが縁で知り合いとなった巻町操(土屋太鳳)も御庭番衆の生き残りの娘である。操は小さな頃から知っている四乃森蒼紫を恋い慕っているが、人斬りの修羅と化した蒼紫は、味方になった剣心を庇う元仲間の翁・柏崎念至(田中泯)を、操の目の前で容赦なく斬り殺してしまう。蒼紫は剣心を探している途中、(剣心が自分を一緒に京都に連れていかないことに)イライラしている相楽左之助と偶然遭遇するが、左之助は何の抵抗もできずに蒼紫から一方的に半殺しにされる。

幕末最強の人斬りである緋村剣心と志士雄真実(側近の十本刀)の対決図式を中心にして、更に御庭番衆の四乃森蒼紫が加わるという豪華な剣客の勝負が連続的に繰り返される面白いアクション映画に仕上がっている。

役柄に対するキャスティングもそれぞれのイメージに合っている。佐藤健の緋村剣心は、小柄・華奢な体格で普段はおどけているが、いざ戦えば強いという原作の剣心の感じが出ている。神谷薫(武井咲)、相楽左之助(青木崇高)、明神弥彦(大八木凱斗)とも、お馴染みの仲間の組み合わせになっている。

『強い者が生き、弱い者が死ぬ』と嘯き、暴力の優勝劣敗の狂気に取り憑かれた志々雄真実役の藤原竜也も、この作品では本人の顔は見えないが、少し前の『藁の楯』に引き続き、こういったどこか壊れた人物の役がはまっている。

十本刀の一人である志々雄の側近・瀬田宗次郎を演じる神木隆之介も、相手を食ってかかるクールで身軽な天才剣士の役に合っていて、『逆刃刀』を叩き折る剣心との一騎打ちは見所になっている。神木隆之介は『SPEC』の一十一(にのまえじゅういち)役でも、同じように余裕のある微笑を浮かべた時間を停止させる特殊能力者の役をしていた。

金髪を逆立てたイケイケのチンピラ風の沢下条張(さわげじょうちょう)もなかなかの使い手で、折れた逆刃刀で立ち向かう剣心が苦戦するのだが、張を演じている三浦涼介という役者もなかなか面白い。

『るろうに剣心 京都大火編』では、人を効果的に殺傷するための『殺人奇剣』の数々を創作・鍛造してきた自身の刀匠の仕事を辞め、剣心に次世代の殺さない刀である『逆刃刀』を与えた新井赤空(その子の新井青空)も重要な位置づけで登場する。剣心は瀬田宗次郎との激戦で、名刀・長曾禰虎徹(ながそねこてつ)の強力な一撃を逆刃刀で受け止めて刃身を折られてしまうが、虎徹の鋭利な刃もまたボロボロに刃こぼれを起こし使用不能となった。

志々雄を討つために新たな名刀を求めて、再び新井赤空の元を訪ねるが、赤空は既に故人となっていた。息子の青空は刀鍛冶の仕事を辞めて日用品の刃物しか作らなくなっており、殺人の道具である刀を嫌い、父の遺品の刀などは存在しないと語った。赤空は剣心に『再び刀が必要となる状況があれば我が元を訪れよ』と語っていたが、幕末の剣客たちの間でも赤空が生前に最高の仕上がりの刀を打ち秘蔵しているという噂があった。

最高の切れ味を誇る赤空最期の真剣(殺人奇剣)があるはずと期待していたのは剣心だけではなかったが、赤空が自身の最高の一振りとして打ったのは、御神刀として京都白山神社に奉納されていた『逆刃刀・真打』である。それは剣心が持っていた『逆刃刀・影打』と同時期に打たれたもの(影打の逆刃刀よりも優れた出来栄えの逆刃刀)だった。

刀匠・新井赤空の会心の仕上がりとなる折れない一振りだが、刀身に刃がない『切れない刀』であり、逆刃刀・真打には『人を殺して築く時代の終焉』を願う赤空の辞世の句が刻まれていた。赤空の悲願の籠る逆刃刀・真打を帯びて志々雄打倒を誓う剣心だったが、江戸に向かう志々雄の船で神谷薫を人質に取られてしまい、海中に投げ出された薫を追って自身も荒海に飛び込んだ。

エンディングでは剣心を抱え上げる謎の男として福山雅治が登場し、志々雄真実・十本刀と江戸で激突することになる『るろうに剣心 伝説の最期編』へと続く形で終わる。