理研・CDBの笹井芳樹副センター長の自殺。バッシングによる心身の疲労と科学者としてのアイデンティティ(組織内のスタンス)の揺らぎ

科学者として最高のキャリア・実績を積みノーベル賞候補とも評された笹井氏だが、今まで目立った挫折がないだけに『CDBでの立場の変化・推薦したSTAP研究の否定』に対応できなかったように思える。

「心身とも疲れていた」=笹井氏自殺で会見―理研の広報室長

笹井芳樹氏は日本を代表する科学者であり、理研CDBの実質的な創設者でもあるが、自身が指導した小保方晴子氏の研究不正の認定により、『CDBの副センター長の地位・論文指導者としての評価・STAPを支持する再生科学の方向性』を失った形になり、メディアからのバッシングや下卑た憶測記事の攻撃も激しかった。

メディアや世論から、小保方氏の指導責任を追及されたり研究不正を容認したようなバッシングがされた事で心身共に疲弊したのは自殺の一因だが、笹井氏は『自分が科学者として築いてきたもの=CDBの国内最高レベルの研究とそれが可能な予算・環境』が崩れていく絶望の感覚をダイレクトに味わったのではないかと思う。

笹井芳樹氏の能力・実績・人脈があれば、CDB副センター長の地位を追われても、理研の他の部門の管理職かどこかの大学の教授くらいにはなれる。自分が研究不正をしたわけではないので、科学者生命や研究者人生が断たれるわけでもないが、笹井氏が理想としたCDBのような最先端の研究環境からは外れる恐れは強まっていた。

それでも笹井氏の人格が優れていたと思わされるのは、遺書において小保方晴子氏をはじめ他人の批判・悪口・責任転嫁を書いておらず、部下の小保方氏に対して『あなたのせいではない・STAP研究を続けてほしい』とし、形式的な上司であっても自身の監督責任を認めている所である。

できれば自殺以外の再起や選択肢を模索して欲しかったと思うが、挫折・後退のない科学者のキャリアを通して、総決算のような形で作り上げてきた理研のCDBを喪失した(将来的には解体される)笹井氏のショックは、ダメなら違う職場・目標を探せば良いと、考え方を切り替えることが難しい類のものではあるだろう。