戦後最低の投票率となった衆院選の雑感:自公325議席・共産増、全体の議席配分の変化は乏しいが…

推定投票率が52.32%、有権者の参加意欲が戦後史上最低となった選挙だが、日本の政党政治から実質的に『与野党・政策・イデオロギーの対立軸,無党派層(非組織票)の政党の選択肢』が消えたことを意識させられる選挙でもあった。

この選挙は『有権者の無関心・無気力の反映』という虚しい結末でもあるが、経済政策だけに争点をフォーカスされてしまうと、野党にはまともな経済成長戦略はなく市場経済や為替を軽視する向きも強いので、自公政権が無難な選択肢と映ったのだろう。

これから4年間の衆院議員の任期では、おそらく自民党長期政権が固められるだけでは済まず、『一強多弱+自民補完勢力の迎合』によって政治は(形式的議論を経由しながらも)一方向的に処理されていく可能性が高い。

安倍晋三首相は今までの自公政権とアベノミクスが支持された結果と語るが、『解散の必要性・与野党の対立軸』は曖昧であり、『安倍政権の延長のためありき』の最適な時期に電撃解散に打って出た安倍首相の作戦勝ちではあった。

本来であれば、支持率を大きく落として政権が倒れかねない10%への消費税増税の公約実施を反故にして、三党合意に参加していた自民党がまるで『増税反対派のような仮そめのスタンス』を示し、消費増税ショックによる政権転落の危機をとりあえず回避したのは、政権運営のトリッキーな変化技である。

プライマリーバランスの黒字化や議員数と議員歳費の削減をはじめとする財政再建の公約もいつの間にか後退して、国債増発を継続して議員・国家公務員の給与も増額(回復)させたが、肥大を続ける100兆円以上の一般予算を縮小する努力については触れなくなっている……アベノミクスと成長戦略で二倍、三倍と税収が増えるのであればそれでも良いのだろうが、財政規律を無視した景気刺激と身を切る改革の先延ばしは将来の税負担に転嫁される危険がある。

共産党は議席を積み増しして、安倍政権の暴走にストップをかけると意気込むが、共産党は資本主義経済(市場経済・競争原理)と大企業の利益構造に対して否定の度合いが強すぎるため、国会における反論・牽制の勢力には成り得ても、実質的に政権の一翼を担えるほどのリアル・ポリティクスの思想と理想、経験(一般的国民の信頼度)に欠けることは否めない。

だが、『反自公政権の票』の流れる先が、『国権強化の保守政党』に対する『個人擁護のリベラル政党』ではなく、別の全体主義(民主集中制)につながるイデオロギーを歴史的に抱え込まざるを得ない『共産党』しかないというのは厳しい現実である。

格差拡大や憲法改正、集団的自衛権行使などの部分において、強烈な反発をしてくれる勢力ではあるが、『反対してからの代案の提示』の段階になると、日本の有権者のマジョリティからはやはり政策を受け容れられない弱みは持ち続けざるを得ない。共産党という党名が持つ歴史的・思想的な制約と一般国民に対する不穏当な印象形成(かつての革命路線支持の古傷)は強いものがある。

与党としての時間が大幅に延長されたため、安倍首相が祖父岸信介から継承した憲法改正や日米安保強化(集団的自衛権の運用に向けた法整備)の悲願を実行に移してくる可能性も高まったが、選挙の争点からは意見が割れやすい憲法・安全保障・国家観・思想や教育・沖縄問題は完全に外されてしまった。

『選挙で問われなかった憲法・人権・安保・情報統制』などの部分は、野党が巨大与党の失策に付け入ることのできる脆弱性にも成り得るが、中長期的には経済問題と双璧を成す国民の自由・権利の制約レベルの問題に絡んでくるものである。

自民党 290議席

公明党 35議席

民主党 73議席

維新の党 41議席

共産党 21議席

次世代・生活・社民 各2議席

無所属 9議席

海江田万里党首自らが落選する惨敗を喫した最大野党の民主党は、『巨大与党への求心力を維持した対立軸(対抗勢力)』としてもはや期待することはできず、下手をすれば『自公政権との政策上・理念上の明確な違い』を打ち出せないままに、部分的な政策迎合や離合集散を繰り返して衰退の一路を辿る恐れがある。

何にせよ、党の顔となるカリスマ性やメッセージ性のある次世代の人材が全く育っていないのは、民主党が野党の求心力に成りえない最大のクリティカルポイントだ。民主党内の有力者である海江田万里と菅直人が揃って小選挙区で落選したように、党として勢いがないだけでなく、『選挙戦での政治家個人の優位性』を示せる人物さえ皆無であり、この点において生活の党の小沢一郎よりも政治家個人としての期待値は低い。

自公政権が325議席で、衆院475議席の三分の二(317議席)以上を確保したことから、与党の国会運営は引き続き楽なものになるが、今回の選挙では『アベノミクスによる経済政策・円安株高』が『アベノミクスの説得力ある代替策を提示できなかった野党』よりはマシと評価され、今よりも景気・雇用・株価が悪くなっては大変なことになるという理由から、自公に組織票+経済(株価)重視の票が流れた側面もある。

しかし、アベノミクスも消費税増税の先送りも、『平均所得低下と格差拡大・社会保障財源の不足・(国債増発による)財政赤字の増大』に対しては、その場凌ぎのアドホックなポピュリズムの政策であり、財源が無限ではない以上、ポスト・アベノミクスにおいてどのような政策で市場や雇用の景気を支え高めていけるのかの具体策には乏しい。

現時点では、農業・医療・薬品・学校・保育所など岩盤規制の緩和(行政・業界団体との癒着解消)と自由貿易拡大のTPP締結、法人税減税・投資減税による外資系企業誘致が成長戦略の決め手とされるが、『規制緩和・法人減税・投資減税(NISA拡大含む)・自由貿易』は額面のGDPを押し上げるが、その具体的な利益配分が国民全体に薄く広く行き渡るわけではなく、アベノミクスと同様に上記の成長戦略にも『配分の偏り』が生じることになるだろう。