『金融経済(投機的マネー経済)』と『実体経済(実生活の景気感)』との乖離と格差:GDPが年率1.6%減

アベノミクスと呼ばれる安倍晋三政権が自賛する経済政策は、『異次元の金融緩和』『巨額の財政政策(公共投資)』『成長戦略(規制緩和・企業減税・産業支援)』の三本の矢によって構成されているが、円安誘導と株価引き上げ(大企業の史上最高益・投資家の含み益拡大など)以外の政策目標は殆ど達成されていない。

安倍首相:あす解散表明 GDP2期連続マイナス、政府・与党に衝撃

11月にも黒田東彦日銀総裁が追加的金融緩和を行ったり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株式市場への大規模な資金投入を発表したりすることで、株式市場は17000円突破の好況を示した。だが、PER(株価収益率)の拡大や赤字企業への投機拡大(期待先行・話題優先の投資)などで、『日本株の割安感』はかなり薄らいでおり、トヨタやソフトバンクなど大型株の値動きも激しさを増し、政策の方針次第で市場がどんな反応をするか読みにくい。

日経平均の17000円が高い水準か否かの客観的判断は難しいが、それは安倍政権の株式市場への積極的介入への期待感が織り込まれているからで、『民間企業の実力の底上げ』を投資家が当たり前のものとして判断に含めているからである。

欧米の株式市場と比較すれば、この水準でもまだ外国人投資家が積極的に入って来たがるほどには割安と言えるのだが、『金融緩和の縮小や廃止・消費税増税や社会保険料の値上げによる消費減速・日本財政の悪化や社会保障費の増加・米国の株価指数と連動した下落・中東やロシアのカントリーリスクの波及』などによって日本市場の評価が急に反転するリスクもある。

アベノミクスの好景気は大企業と富裕層を中心とした『経済指標の連動的な好況・企業利益と金融資産の含み益の拡大ベース』であり、確かにその恩恵を受けられた企業群や個人層はあって、一部の高級品が飛ぶように売れていたりもする。

東京都心と比較すれば富裕層が少ない福岡市でさえ、街中に繰り出せばここ数年で新車のメルセデスベンツやレクサス、BMWなどの保有率の拡大が実感されるし、1食が1人1万円以上もする高級なお店が予約で数ヶ月先までいっぱいだったりもして、庶民とはかけ離れた景気の実感が一部にはあるのだろう。

そういった勤労所得が副次的なものに過ぎない富裕層(プチセレブ・非サラリーマン層)は拡大しているのかもしれない(実際安倍政権が誕生してから金融資産1億円以上を持つ富裕層は数%増えているという報道もある)し、ちょっとした贅沢ができる程度に所得が増えた人も少なからずいるだろう。

だが、企業経営の利益や成功した専門職・事業者、保有株式の売却・配当などというのは、大多数の一般国民や勤労所得がメインの人にはほとんど関係のないアベノミクスの恩恵であり、GDPは逆にマイナス成長の数値を示している。

『経済指標の連動的な好況』という面では、『株価・企業利益・新卒雇用・富裕層マーケット』などでは良い数値を出してきているが、『大多数の国民の生活実感・所得水準』を改善させる効果はあまり出なかったと評価されても仕方ない。

基本的に、アメリカと日本は『グローバル市場の適応・多国籍企業の経営支援・株式市場の数値の引き上げ』を優先課題にしていて、国民平均所得の向上(格差の縮小)や社会全体の消費を拡大する目標は後回しにされている観があるが、『消費税増税の判断基準』を株価や大企業の業績だけに置くのであれば、消費税増税後に更に消費は冷え込むことはほぼ確実だろう。

だが、安倍首相は『消費税増税スケジュールの公約の見直しの公約(10%の消費増税の2017年4月への延期)』という離れ業を繰り出して、12月の衆院解散総選挙に打って出た。

これは『税と社会保障の一体改革の決断にまつわる責任』を政治から国民に委ね直して『選挙の審判』を免れよう(消費税を上げた政権は倒れるというジンクスを逃れよう)というアドホック(姑息)な戦略にも見えるが、政治家として政権与党としてはかなり老練かつ手堅い判断とも言える。

自公政権の政策的・思想的な対立軸が消滅しており、消費税増税に大多数が反対である現状(自民党以外の政権では経済指標さえ悪化する見込み)では自民党が議席を減らす可能性は低いが、『結果としていずれ増税するスケジュールは変わらないし本来は今すぐ増税したいが、国民の皆さんが今はダメだというから3年後に延長します』というような公約が、解散総選挙を実施すべき大義名分になるのだろうか。

本来は首相と内閣と国会が、自らの政治判断と事後の国民・市場からの審判を仰ぐ覚悟で決断すべき問題であることは明らかで、『インフレ・円安の物価上昇と給与の伸び悩みで生活が苦しいみたいだけど今、税金を上げてもいい?上げたくなかったらこっちに投票してください』というような態度は議院内閣制・政党政治の趣旨からすれば論外である。

『消費税増税以外の外交・軍事・教育・憲法などの重要政策』には目隠しをして、消費税はとりあえず来年は上げませんからと、急いで総選挙で勝ちを取りに行こうとする安倍政権のやり方は疑問だし、『自公政権の総合的な政治に対する反論・批判』を『消費税増税延期だけを争点に据えた選挙結果』によって封じ込めようとするようなやり方は衆院解散権の過度の党利化(長期政権のレバレッジとする道具化)でもあるだろう。