IS(イスラム国)はなぜ“火あぶりの処刑・世界文化遺産パルミラ遺跡の爆破”を行うのか?:反欧米の宗教原理主義

イスラム国(IS)は欧米の進歩主義的歴史観に由来する『近代の個人主義的なヒューマニズム(人権・自由・民主)+資本主義(市場・産業の競争)』を否定することで、復古主義の自集団をアイデンティファイしている。

「イスラム国」が新たな火あぶり処刑動画。イラク兵捕虜4名が生きたまま…。

なぜイスラム国(IS)は人の生命・人権や男女の平等、平和主義、世界遺産(文化的歴史的価値)を尊重せず、日米欧のヒューマンな近代国家の価値全般を野蛮に見える方法・思想で蹂躙するのか。『反欧米勢力』でありながら経済・文明・人道の水準で劣る立場を、それを目指さない思想的宣言で逆転させる作為的演出でもある。

イスラム国(IS)は『経済がどれだけ豊かか・技術がどれだけ進んでいるか・人権がどれだけ守られているか・男女がどれだけ平等か・個人がどれくらい幸福か』という、欧米諸国にはじめから及ばないと分かっている『近代的なヒューマニズムの価値基準』を頭から否定し『勝てない近代的進歩主義の土俵』から下りているのだ。

『物質文明・人権思想・技術主義の近代化』を競う土俵(フィールド)で戦う限り、ISは欧米諸国よりも『人権・男女平等が守られていない貧しい後進国』であるという欧米が作った価値基準から指弾され欧米を追いかけたり支援を受けたりする立ち位置に立たされる。反欧米を徹底すれば進歩より昔が良かったの復古主義が勝る。

『イスラームの原点の教えや聖典にどれだけ忠実な国・社会であるか(IS指導層が考える原理主義・復古主義への接近度)』という欧米とは異なる価値基準を敢えて打ち出す事で、ISは『背教・物質主義(堕落)の欧米諸国』より優位な位置に自己をアイデンティファイできる。中世的な火あぶりの処刑も『応報の正義』となる。

近代的・世俗的な進歩主義とは、物質的に豊かになりたい、個人の自由や権利を広げたい、技術や消費文明を発展させたい、男女の差別的待遇を減らしたいなどを織り込むが、『非合理的(慣習的)な伝統社会・宗教規範の否定』であるから、近代化の進んだ欧米側を模範として他を啓蒙・追随させるイデオロギー装置の面もある。

イデオロギーの対立軸で見れば、歴史を先に進めることに価値を見出す『欧米側の進歩主義(未来志向・人権と個人)』、歴史を巻き戻してアッラー中心の神聖政治に近づくことに価値を見出す『IS側の復古主義(原点回帰・敬虔な宗教共同体)』の相容れない衝突。物質や個人の豊かさの追求は、IS的には堕落・背教となる。

シリア中部にある世界文化遺産・パルミラ遺跡の『ベル神殿』が、IS(イスラム国)によって爆破され現状回復が困難になっているが、これも近代的価値からすれば『人類共通の文化遺産の保護』に違反する野蛮・無知な振る舞いだが、ISからすれば『異教徒の邪教的な神殿・禁忌の偶像崇拝の痕跡』で爆破が正義となる。

シリア中部にある世界文化遺産・パルミラ遺跡の『ベル神殿』が、IS(イスラム国)によって爆破され現状回復が困難になっているが、これも近代的価値からすれば『人類共通の文化遺産の保護』に違反する野蛮・無知な振る舞いだが、ISからすれば『異教徒の邪教的な神殿・禁忌の偶像崇拝の痕跡』で爆破が正義となる。

人類全体の歴史・文化を俯瞰的かつ網羅的に『観察・研究できる状態』を保っておくことが望ましい、『元通りに復旧できない過去の遺跡・遺産の文物』を破壊することは野蛮・無知であるという考え方自体、近代的・主知主義でありすべての文化・宗教を同列に置く文化相対主義である。ISの原理主義は相対主義否定の急先鋒だ。

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