「宗教・思想」カテゴリーアーカイブ

砂漠の風土・生活様式と一神教の宗教の本質:過酷な自然と向き合った人間と信仰

キリスト教やイスラームは不毛の乾いた大地で有限の資源を奪い合ってきた『砂漠の宗教』の出自を持つ。山・森林・水に恵まれ和を尊ぶ温暖な日本から一神教の信仰や歴史は見えづらい。砂漠において和は心の持ちようではなかった、『和』は渇ききった自分が漸く手に入れたコップ一杯の水を分け与えられるかを問う生のシビアな現実であった。

中東や北アフリカの途上国では紛争・テロ・犯罪が絶えず、ムスリムには過激化する者も出るが、砂漠の宗教・部族(ユダヤ人起源)の宗教でもある一神教は元々『信仰・正義の為の戦い(神の命令による殺戮)』を否定しない。努力して平和や博愛を実現する理想もあるが、戦って生き延びた砂漠の風土の影響は水面下にある。

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釈迦(ブッダ)とイエス・キリストの死から『無常・不死願望』を考える:知識・教養の効用とは何か?

東洋の仏教(釈迦)と西洋のキリスト教の最大の違いは『死の捉え方』にある。釈迦は死を『無記』として諦める他ない人の無常の定めとする(浄土思想はキリストに近い)が、キリストは『死と復活の物語』で人間の不死願望(消滅の不安・無意味さ)を満たそうとする。この『魂の不死+理性による救済』はソクラテスまで遡る。

ソクラテスの毒ニンジンの自死とキリストの十字架の刑死は『ヨーロッパ文明の礎石』だが、仏教や釈迦の涅槃と比べれば人が死ねば消滅するしかない現実を受け容れられない人間臭い思想だろう。『理性(ソクラテス)と信仰(キリスト)』で死(消滅・無意味)に抗い、理屈好きのギリシアの哲学者達さえも非理性的な『魂の不死』を信じた。

ヨーロッパ文明の源流にあるギリシア哲学とキリスト教は、『死ぬ人の有限性の限界』を理性教と宗教で克服しようとした営為だろう。ソクラテスとプラトンはイデア思想によって『肉体が滅びた後の愛知者の魂は不死』という理性信仰を掲げ、キリストはより大衆的に『神を信じれば死と復活で永遠の幸せが約束される』と説いた。

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『六曜』の吉凶占い・迷信からなぜ差別が連想され得るのか?

古代では『暦』は『吉凶占い・運勢』とセットだった。六曜も暦に日の吉凶を加える『暦注』の一つで、日本には鎌倉・室町期に入った。六曜の影響は冠婚葬祭で強いが、明治期にも一度禁止されている。

「六曜は迷信」差別を助長? 大分でカレンダー配布中止

『六曜』が科学的根拠のない迷信・俗習であることは確かだが、それがなぜ部落解放同盟が憂慮する『差別』に結びつくのか。『一定以上の人数が根拠のない吉凶占いに従う(あるいは本心で信じていなくても同調圧力の世間体に合わせる)』という集団心理を、かつての部落差別・穢れ嫌悪の心理と重ねたという事だろう。

部落差別は『旧身分(穢多・非人)+職業差別+穢れ(ケガレ)思想』に基づいて行われたものである。『生き物の殺生に関わる職業および河原等の特定の地域は汚穢(ケガレ)に塗れている』という無根拠な迷信があり、その迷信は『合理的な抗弁』では変わらなかった。その差別的な大衆心理を六曜の影響力に重ねたという事か。

部落差別と六曜には直接の関係はないが、その大衆心理・世間体の構造には似た要素があるとは言える。部落差別も『私は部落を差別しないという人』が『実際に部落の人と結婚するとなったら猛反対する人』が多かった、六曜もまた『私は六曜など気にしないという人』が『実際の冠婚葬祭では六曜に従ってしまう人』が多い。

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仏教の諸行無常の世界観と人の悩み・苦しみへの対応:流動的な現実・自我に対して固定的な意識(過剰な欲望・執着心)になり過ぎないように。

仏教の世界観は『諸行無常・諸法無我・一切皆苦・涅槃寂静』に集約されるが、個人の解脱(正覚)や衆生の救済を説く仏教の功徳は『抜苦与楽』といわれる。

人はなぜ苦しむのかの問いに、ゴータマ・シッダールタ(仏陀)はシンプルに『煩悩・渇愛の執着』があるからだと答えるが、それを諸行無常に照らせば『すべてがただ過ぎ去る(生命の炎がいつか吹き消される)世界の中に、自我とその快感覚を常住させようとする執着の足掻き』によって苦しむとも解釈できる。

生命活動とは、すべてが流れさっていく中で流されまいと踏ん張り、吹き消されようとする中で吹き消されまいと己を燃やす営みであり、自我が時間に流されて吹き消される前に、次世代の生命へと輪廻する縁起・本性を持つものでもある。

悠久の宇宙と膨大な時間を前に、人は砂粒ほどに小さく無力である。その人為・努力・技術あらゆるものをもってしても、宇宙開闢以来すべてを流しさって生命とモノの秩序を崩壊させてきたエントロピー増大則に抗することは不可能であり(刹那的な生命・仕事によるネゲントロピーで部分的な抵抗はできるが)、時間が何なのか何の意味があるのかさえ誰も分からない。

存在の有限性と自我の一回性の前に、人は根底的不安から戦慄して目を背けざるを得ない。有限性を直視して苦しみ・迷いを超越して輪廻から離脱したものを正覚者たる仏陀と呼ぶ。だが煩悩と弱さを抱えた人間はまず仏陀などにはなれないからこそ、人間界は輪廻を繰り返して今なおここにあるとも言える。

苦しみの原因として『生・老・病・死』の四苦を上げるが、これは『時間経過による死の運命』であると同時に『人(生命)の有限性』によって生じる不可避な苦しみである。私もいずれ老いて死ぬが、私より先に生まれた祖父母・親きょうだいはかなりの確率で先に死に、好きになった人も大切な人も良い思い出のある人も嫌な思い出のある人もおそらくは、宇宙的時間に照らせばわずか100年(またたきの刹那)の歳月にさえ耐え切れずどこかに流れ去っていくだろう。

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なぜイスラム教徒(+キリシタン・白人のムスリムへの改宗者)は増えるのか?

イスラム教は現在のペースで信者数を増やしていくと、2070年にはキリスト教の信者数を追い越して、『世界最大の宗教勢力』へ拡大すると見られている。ムスリムの人口は現時点でも16~17億人以上はいて、この人口は今後増えることはあっても減ることはまずなく、毎年数百万人の単位で増えていくと予測されている。

なぜ増える? イスラム教への改宗

日本人にとってイスラーム(イスラム教)は、もっとも馴染みが薄い世界宗教であり、イスラームは日本人一般が宗教アレルギーを感じやすい“規律的・強制的な宗教”としての特徴を多く備えている。

仏教の戒律でさえ、天台宗の円頓戒や浄土門の解釈で無効化してきた日本人は、宗教的な細々とした行為規範が日常生活の内部に入ってくることを嫌う傾向がある。
イスラームというのは『信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼』など五行の義務の強制力が強く、集団主義的な同調圧力や宗教的な罰則がある点でも、現代の先進国の人々には一般的には受け容れられにくい。

では、なぜムスリムの人口は拡大し続けるのか。記事にもあるが、その原因は主に以下のようなものである。

1.イスラム教徒の女性合計特殊出生率の高さ+先進国の出生率の低さ

2.イスラーム圏の若者人口比率の高さ+先進国の超高齢化の進展

3.非ムスリム、特に先進国(自由主義圏・資本主義圏)からの改宗者の増加

なぜイスラム教徒の出生率は高いのか。紛争地帯・治安悪化地域が多く、平均的に教育水準が低くて、『結婚・出産』以外の女性の人生の選択肢が殆どないからである。

伝統的な部族共同体のルールや性別役割分担のジェンダーから、女性が『自己決定権・自己選択権』を理由にして、結婚しない産まない(子供は○人で良い)といった選択をすることが難しく、また高等教育前後のモラトリアムもないので一定の年齢で大半が部族の義務として早くに結婚する。

家父長制に基づく家族制度で『男=夫・父の権限』は先進国とは比較にならないくらいに強く、女性は基本的には家(父)に付属する財物としての認識に近く、自分がどうするかを自分で決める『自由な個人』という自己規定そのものが男でも女でも成り立たない。部族(血族集団)や家(男の庇護)から切り離された女性は、生きていくことが不可能か極めて困難な状況にある。

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パルミラ遺跡を破壊するIS,マイナンバー制度と監視社会,ドコモのカケホーダイライト(1700円)など

偶像崇拝・異教の神殿やその歴史的痕跡が、アラーの威光を貶めると解釈するイスラム原理主義(ISの宗教国家理念)と、『人類の精神文化の遺構』を人類共通の財産とする世俗主義の価値観は折り合わない。

パルミラ遺跡、消滅の危機 IS、一部をパン工場に

古代ローマ帝国がオリエント世界(属領シリア)と遭遇したことで作られた『パルミラ遺跡の建築・神殿の遺構』は、人類の歴史の客観的事実の貴重な足跡だが、ISにとっては『ヨーロッパ文明(異教徒文明)の起源である古代ローマ帝国の事蹟・遺跡』には何ら価値がなく破壊しても構わない偶像・モノという事になる。

個人番号カードの交付、顔認証で 全国地方公共団体が導入

マイナンバー制度は『税・社会保障・健康保険・口座開設』と紐付けられて、国民全員がカードを申請しなければならなくなる。ガラス張りの監視社会の保護‐支配の強度は強まるが、顔認証データは人物照合の犯罪捜査に応用されるかも。

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