アメリカの日本に対するシェールガスの輸出認可(TPP交渉参加の前提)と日本のエネルギー政策の展望

アメリカは『シェールガス革命』と呼ばれる技術革新(イノベーション)によって、石油エネルギーの輸入国から天然ガス(シェールガス)の輸出国へと転換しつつあるが、米国ではシェールガスの生産過剰によって国内価格が下落して倒産する企業も出始めている。

しかし、米国は自由貿易圏の拡大戦略とシェールガスのエネルギー輸出相手を紐づけており、現状では米国とFTA(自由貿易協定)を結んでいる相手国にしかシェールガスの輸出を認可していない。

日本はTPP(環太平洋経済連携協定)参加を渋っていたことがあり、シェールガスの輸出先から漏れていたが、『安倍首相とオバマ大統領の2月の首脳会談における日本側からの要請』を受けて、オバマ大統領が対日輸出を認可した。

『日本のTPP交渉への参加姿勢』と『米国内での供給過剰(価格下落)』という前提条件の影響ももちろんあるのだが、アメリカの太平洋地域における安定的な世界戦略の推進には『日米同盟(日米安保体制)』が欠かせないからであり、日本のエネルギーコスト削減(日本経済の景気回復・被災地の復旧復興)を支援するという意味合いもある。

シェールガスは地下数百メートル以上の深さにある『頁岩(けつがん)層=シェール層』に含まれる非在来型天然ガスで、今までは採掘コストの高さから実用化が困難であったが、超高圧の水や化学薬品を注入して岩盤を破砕しながらガスを採取する『水圧破砕法』のイノベーションでコストが大幅に引き下げられた。

米国内で50万人以上とも言われるエネルギー部門の新規雇用を創出し、アメリカの『長期的なエネルギー政策・需給』の見通しを明るくしたことで、シェールガス革命とも呼ばれている。北アメリカとヨーロッパで『シェールガスの埋蔵量』が多く確認されていることから、中東・ロシア・南米の政情不安定な資源大国(産油国)にエネルギーを依存しなくても済むかもしれない『自由主義圏の潜在エネルギー』としても期待が高まっている状況である。

日本がアメリカからシェールガスを輸入できるようになることの戦略的・経済コスト的な意義は大きく、中東諸国に頼っているLNG(液化天然ガス)の輸入コストを、米国のシェールガス単価との比較で3割程度は引き下げられるのではないかと見られている。『エネルギー調達先の多様化(価格競争力の発生)』と『日米同盟を前提とする安定供給』は、LNG調達で3.8兆円の追加コストを追わせられている日本のエネルギー戦略(追加コスト分の電気料金の値上げに見舞われる企業や国民)にとってメリットが大きいものである。

日本へと向かう石油タンカーが通過する『ホルムズ海峡』が、米国と厳しく対立するイランによって封鎖される危機が幾度も懸念されている現状では、中東諸国の政情や紛争によって調達が滞る恐れがない米国からの定期的な輸入ルート(太平洋経由ルート)確立は、エネルギー供給元の多様化という保険のようなものにもなる。

今のところ、シェールガスの想定輸入量は微々たるもので、4年後に中部電力・大阪ガスがテキサス州のガスプラント会社から、年間440万トン(LNG輸入量の5%相当)を輸入するだけだが、『アメリカの輸出量抑制』は米国内でのエネルギー価格の調整に配慮したもので、『米国内での安価なエネルギーの維持(輸出増・外需増大による値上げの回避)』を望む米国民の世論が圧倒的だからである。

シェールガスは技術革新によって実用化されたが、それでも採掘・精製コストは激安とまでは言えず、LNGの輸入単価との比較で5割減までコストを引き下げることは困難(上手く交渉を進めて3割減程度)のようである。また、アメリカ国内の環境保護団体などが、シェールガス採掘の水圧破砕法が地下水を汚染して水源・農地を荒廃させ、温室効果の高いメタンガスの大量発生が地球温暖化を加速させるという主張をして、シェールガス増産体制に対する反対運動が起こったりもしている。

日本のエネルギー戦略におけるコスト問題は、『火力発電に必要な石油・LNGの輸入調達コスト』と『原子力発電に必要なウラン・プルトニウムのコスト』の比較で語られることが多い。だが、万が一の原発事故処理や廃炉、除染、核廃棄物の最終処理のコストの正確な算定をなおざりにしたまま、『即時の原発再稼動』こそが日本経済の復興・成長につながるという市場主義者・評論家・ジャーナリストの意見は拙速のように思う。

シェールガスの大量輸入の交渉をアメリカや将来のシェールガス輸出国と進めるというエネルギーコストの削減策を取りながら、自然エネルギーの効率性を高める技術改良も続けていって欲しい。

原子力発電については全てを即時に廃棄せよ(審査せず一律に原発再稼動を絶対に認めない)という意見は極端だと思うが、経済的合理性を越えるもしもの原発事故の被害の大きさを考えれば、『新規の安全対策基準と多重防災体制・地盤の活断層評価・原子力規制委員会の審査』にパスした原発だけを再稼動させるという原則を曲げることは望ましくない。