北陸道バス事故:長距離夜行バスの低価格・労働実態・リスク

バスの車体が防音壁に衝突して真っ二つに割けるような関越道の高速バス事故が発生したことで、『長距離高速バスの規制強化』が行われたが、それでも今回のようなバス事故(予測困難な居眠り・発病・発作などによるバス事故)を完全に防ぐことはできないだろう。

大型二種免許を所持する運転手が運転するバスもまた自動車の一種であり、人間が運転する自動車の事故がゼロには決してならないように、バスの事故も『運転ミス・貰い事故(他車の衝突)・体調悪化・発病や発作・睡眠不足・整備不良(部品劣化)・運転手の過労状態』などの各種のリスク要因によって引き起こされる確率がある。

公共交通手段の安全性の高さは、『航空機・鉄道(JRなどの列車)・バスやタクシー(自動車)』の順番で低くなるが、長距離夜行バスは何といってもその低価格が人気となっており、同じ距離を飛行機や新幹線で移動するよりも半額以下の価格で行くことができる。安全性の高低は、一般道を走る路線バスやタクシーなどでは殆ど意識する必要はないと思うし、実際に一般道の路線バスの死亡事故(怪我するような事故は稀にあるが)というのは滅多に起こらない。

現在はLCC(格安航空会社)の早期割引などで極端に安い航空機も増えてはいるが、規制強化前のワンマン運転体制での長距離バスは『価格破壊』が進行して、福岡から東京まで数千円程度で移動することができたくらいである。新幹線は安全・快適というイメージは強いが、事前予約をしてもなお価格には割高感があり、頻繁に長距離移動する人は負担が大きく感じられやすいのだろう。新幹線では死亡事故が起こったことがないという圧倒的な実績があるので、その安全代として割り切れば安いとも言えるかもしれない。

破格の安さの裏には当然ながら、徹底した人件費のコストカット、ワンマンの運転手の酷使(休日の少なさ・長時間運転など)などのリスク要因が合わさっているわけだが、夜間の高速道路というのは十分な睡眠を取って健康・体調に問題がないドライバーであっても、何時間もぶっ続けで運転するのは一定のリスクがある。

何しろ、知覚・判断力・健康が不完全な一人の人間の運転技能だけに、全乗員の生命が預けられていて、通常、現在の大型バスにはハンドルとブレーキ以外の自動的な危機回避装置や停止装置、居眠り発見システムなどは備わっていない。

常識的には、高速で居眠り運転をすれば運転手自身が最も死亡しやすい座席なので、運転手自身が居眠りをしないように最大限の健康管理や意識の持ち方をしていると信じるしかないわけだが、『過労状態の継続と居眠り(本人が自覚してない睡眠不足・体調不良も含め)』や『突然の心臓発作や脳卒中(意識消失)・潜在的なてんかん発作』が絶対にないとは言えない。

労使協定(36協定)によって、2週間に1日の休みしかないことに労働組合・本人が書面で同意していたと説明しているが、複数の顧客の生命を預かるバス運転手の仕事で、11日間も連続勤務させることが『安全運行を妨げる恐れのある過労・過緊張・ストレス・睡眠不足』につながるという認識が使用者にないことが問題である。

ドライバー業務の場合には、長時間労働をしても目的地に到着した後に多少の仮眠(自由時間)が取れるという発想から、丸一日の休日が少なくても体力面・健康面では大丈夫なはずという考え方が為されることも多いが、『きちんとした部屋・ベッドや布団の環境』で仮眠を取れるか否かだけでも睡眠の質は随分と違ってくるわけで、車内での仮眠で十分に疲れや眠気が取れるというような考え方があるのであればその基本認識が間違っている。

消費者が『運賃の安さ』だけを基準にせずに、『安全管理体制の強化によるコスト増加』を受け入れることも必要なのだが、『法令基準・規制による最低限度の安全管理体制の担保』と『企業と従業員双方の安全第一の意識と対策(自己管理)の徹底』とが組み合わさらないと、過労状態による自覚できない疲れや睡眠不足の蓄積というリスクは取り除きにくい(本人が大丈夫といっても連続勤務を会社側ができるだけ回避してドライバーを意識的にしっかり休ませるくらいの安全意識が必要なくらいである)。

近未来的には自動運転システムがバスにも搭載されるのかもしれないが、当面はバス運転手ひとりの意識レベルと運転技能のみによってバスを安全運行させるしかないわけで、長距離夜行バスには一定のリスク要因が潜在的にあるという認識はやはり必要かもしれない。

安全対策としては、一定以上の移動距離に対する運転手の2名体制の義務づけが為されてはいるが、『居眠り防止対策』としては運転手を2名乗務させるだけでは、一人は仮眠をとっていることも多く対策にはならない。絶えず横にいて話しかけたり運転手の覚醒水準(眠たそうにしていないか)をモニターするバスガイドのような乗務員1名を乗せなければならないとする追加的規制の対策を講じることも検討すべきかもしれない。

また未来の自動運転システムとまではいかなくても、『カメラセンサーによる居眠り検知システム(居眠り検知によるブザー音やバス内に聞こえる警告メッセージ・居眠り検知時のハザード点灯と自動減速・自動停止など)』のようなものを、バスに搭載できる可能性はあるのではないだろうか。