韓国の“セウォル号沈没事故”の事故原因と安全管理体制・遵法意識の問題

韓国の大型客船セウォル号(6825トン)の事故原因が、次第に明らかになりつつあるようだ。

事故が発生してしまった直接の原因は『急旋回の運転ミス+過積載(積荷の固定の弱さ)』だが、韓国企業が日本から購入した1994年製のセウォル号を大幅に改修して全高を51センチも高くしたことが、『復原力(ある程度までの船の傾きを自力で修正して姿勢を立て直す力)の大幅な低下』という船舶の構造上の不安定さにつながったと指摘されている。

車に置き換えれば、全高・重心の低いスポーツカーは地面に張り付くような走りで高速運転での旋回性能を高いレベルで維持しやすいが、全高・重心の高いワンボックスカーは高速運転中に急カーブを強引に曲がろうとすると横転するリスクが高くなるというような構造上の弱さがセウォル号にあった。

更に、積荷を違法に詰め込めるだけ積み込む『積載上限の二倍以上の過積載(違法行為)』を行って、船体の不安定さの度合いが高まっていた。積荷の固定も弱かったために、急旋回で過積載の荷物が片方に集積して復原力の限界を越えてバランスを崩してしまい、沈没事故を引き起こした。

この危険な過積載の問題は、船舶に限らず大型トラックなどでも日常的に横行しているが、日本の高速道路でもトラックの荷台から積荷が大幅にはみ出していたり、明らかに積載上限を超える土砂(後ろに砂・小石がパラパラ落ちるような)を詰め込んでいたり、ロープや器具での固定が甘くて積荷が今にも落ちてきそうな状態のものがある。

波もなく沈没リスクもない陸上の道路ではよほどの無謀運転をしない限りトラックは横転まではしないだろうが、縦長の船体を持つ船舶の過積載は『復原力の低下』がそのまま(一定以上の傾きを修正できず波の揺れの影響も大きいという意味で)命取りになる。

セウォル号は全長に対する全高を高くしたことで、『縦長・重心の高い船体の構造(旋回性能の低い船体の構造)』を持つようになってしまったが、この増築の改修(建て増し)は『乗客定員・積荷の積載量の積み増し=利益率の増大』のために行われたものである。更にこの船舶の運営会社は『増築の改修による積載上限の引き上げ』にも飽き足らず、984トンの積載上限に対して2000トン以上を積み込む『違法な過積載』を行い、間接的人災とも言えるこの沈没事故を招来した結果になった。

日本で運行されていた『フェリーなみのうえ』は総トン数が6586トン、定員804名だったが、韓国企業が改修したセウォル号の総トン数は6825トン、定員は921人と引き上げられており、船体の全高は51センチほども高くなっていたという。

海上運送業の効率性と利益性の追求によって構造上・ハード面の安全性がなおざりにされただけではなく、セウォル号は『違法な約2倍の過積載+旋回の運転の荒っぽさ(経験の浅い三等航海士に運転を任せていたという報道もあったが)』と『乗客の安全管理・救出義務(沈没前の避難誘導放送)に対する船長の責任感の欠如』によって、無責任な人災としての側面を併せ持つ沈没事故を起こすことになってしまった。

事故直後の16日の時点で、日本の海上保安庁が韓国の海洋警察庁に救助活動の応援を申し出て断られているが、韓国は今日になって日本やアメリカにも救助活動の支援要請をしたという報道もあり、いずれ支援を受けるのであれば早い段階で協力してもらったほうが被害者数を一人でも減らせた可能性はあり、こういった災害・事故の緊急救助活動では国家主義的なメンツにお互いこだわらないという原則に依拠すべきである。

船体が横倒しになってから沈没するまでには約2時間の時間的猶予があったとされるが、業務上過失致死の嫌疑がかけられている60代の船長は、『乗客に避難を呼びかける放送+乗客を救命ボートにまで誘導する義務』を放棄して、自らが真っ先に現場から逃げ出すという信じられない行動を取っており(自分の生命を優先するにしても避難の呼びかけや避難する方向の指示をするだけの時間は十分にあったとされるがそれもせずに管理監督義務のある船から自分が離れている)、このことが被害の拡大を招いた要素は軽視できないだろう。

この沈没事故を報じる朝鮮日報の記事(http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/04/18/2014041801308.html)には、以下のようなインタビューもあり、韓国内でも自国の事故対応・政府の判断や公共交通機関の安全管理体制(人命や法律を軽視する利益主義)に対する批判は強くなっているようだ。

ソウル大のインターネットコミュニティーで、ある学生は「『事故共和国』だった1990年代に時計が逆戻りした。聖水大橋と三豊百貨店の崩壊、大邱地下鉄放火などを経験しても、人災を繰り返すわれわれに答えはない」と憤った。会社員Lさん(28)は「韓国は惨事を経験しても、その場の収拾が精一杯で、何の教訓も得ない。経済的には少々成長したかもしれないが、社会システムは後進国レベルだ」と書き込んだ。