映画『アフター・アース』の感想

総合評価 84点/100点

ジェイデン・スミスとウィル・スミスの親子共演作であるが、『アフター・アース』の作品中でも二人は親子の設定であり、『伝説的な戦士である偉大な父親(サイフェ・レイジ)』に尊敬(憧れ)と劣等感を同時に感じている息子キタイの成長を描いた映画である。ハリウッドで大成功を収めた父親のウィル・スミス、父親の七光りと揶揄されることも覚悟しなければならないジェイデン・スミスの『現実の父子関係の葛藤』を映画世界に置き換えたような作品でもあり、『父親の後見・保護』を離脱していく姿が丹念に映されていく。

2025年、人類は生存不能なほどに地球の自然環境を破壊して、遠く離れた惑星ノヴァ・プライムに移住することになったが。 ノヴァ・プライムの先住民は人類の恐怖心を探知して抹殺する巨大生物『アーサ(URSA)』を作成した。『アーサ』は視覚も嗅覚も機能していないが、人の恐怖心による自律神経系の変化を鋭く察知して攻撃を仕掛けてくる特性を持ち、恐怖心を克服できない大半の人間はアーサと遭遇すれば抵抗する術もなく殺戮されてきた。

ノヴァ・プライムへの惑星間移住から1000年の月日が流れ、人類はアーサから自分たちを防衛するためのレンジャー部隊を育成するようになっていた。13歳のキタイ・レイジ(ジェイデン・スミス)もレンジャーを志願して訓練に励んでおり、体力面・技能面では抜群の成績を上げていたが、精神的な未熟さが残っているという理由で正式採用は見送られていた。過去に、キタイは姉のセンシ・レイジがアーサに襲われている時に、何もできずに殺されるのを見ていたというトラウマがあり、今でもアーサ襲撃の緊急事態において、戦闘態勢を即座に取れる自信がなかったのである。

父のサイファ・レイジは。自らの恐怖心を完全に克服した『ゴースト』という伝説のレンジャーであり、アーサにその存在を知覚されることがないため、多くのアーサを葬り去ってきた人類救済の実績を積み重ねていた。幾多の戦闘をくぐり抜けてきた英雄のサイファだったが、残りの人生は家族と共に穏やかに暮らしたいと願い、レンジャーからの引退を密かに決意していた。最後の任務に息子キタイを同行させたサイファだったが、レンジャー部隊を乗せた宇宙船が小惑星嵐に遭遇して、第一級隔離惑星である『地球』に不時着してしまう。

大破した宇宙船に残された生存者はサイファ・レイジとキタイ・レイジだけだったが、ノヴァ・プライムに遭難信号を発信するためのシグナル機器『トーチ』は、約100キロメートル離れた『機体の尾翼部』にある。最も頼りになるはずの父サイファは、大腿部の動脈を切断して全く身動きができない状態であり、二人が生き残るためには息子キタイが一人で、原始的な危険に満ちた姿に戻った地球の100キロ先にあるトーチを取ってこなくてはならない。

父からの自立を願いレンジャーとしての能力に自信を強めていたはずのキタイだったが、『人類の生存を拒絶するような過酷な地球環境』と『人類を殺すための進化を遂げたという動物の生態系』を前にして、自分なんかにはとても取りに行けるはずがない(途中で死んでしまうだけだ)という臆病さに囚われる。サイファは息子に無線通信装置を取り付けて、『いつも俺が見守っていて指示を出すから心配するな、お前ならきっとやれる』と語りかけるが、動脈切断による出血量の増加で次第に意識を維持することが困難になる。

母星よりも遥かに薄い地球の酸素濃度の中で、キタイは『4錠の酸素剤』を手にして移動を開始するが、2錠を途中で破損してしまい『酸素剤の不足』という困難を味わうことになる。凶暴な野猿の集団、致死性の毒を持つヒル、人を運び去るほどに巨大な猛禽類、夜間になると氷点下にまで下がる気温など、さまざまな危険を自力で乗り越えながらトーチのある地点を目指すキタイだが、突出した化物はアーサ以外には出ないものの太古の地球を再現したような映像のクオリティは高い。

『恐怖心は人間の想像(イメージ)に過ぎない、現実には存在しないもので、お前次第でコントロールできる』というゴースト(感情の克服者)である父サイファのアドバイスを受けたものの、おどろおどろしい巨大なアーサの姿を見て恐れる心を抑制できないキタイは危機的状況に陥るのだが……『キタイのゴーストとしての覚醒』の瞬間を演じたジェイデン・スミスの切れ味鋭い戦闘場面の演技はなかなか見ごたえがあるように感じた。