世界経済フォーラムによると日本の男女平等度は“105位(3年連続低下)”だが、

今回8回目の『国際男女格差レポート』は政治活動・経済活動(労働)への参加率を指標化したもので、厳密な男女の社会的格差や幸福感の格差(希望する生活状況の達成率)とは相関していない点には注意が必要かもしれない。

要するに、安倍晋三首相が『2020年までに社会のあらゆる分野において、指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%以上にしたい』と語った女性の社会的地位向上の政策目標のように、こういった大上段に構えた欧米基準の政治的目標は『その国で生活する女性の実際の希望・目標』と合致していないことも多い。

男女平等指数、日本3年連続低下の105位 世界経済フォーラム

特に日本では、一般の女性に『職業的地位の上昇(大企業のCEOや経営陣に参画したい)・政治的権力の獲得(国会議員や閣僚になりたい)・フルタイム労働のキャリア獲得や専門家としての役割』などをエネルギッシュに実現することを人生の優先的な課題にしたいと考えている人は少なく、むしろ『自分と配偶者(家族)をセットにした自意識』で人生を捉えることのほうが多いという諸外国との違いが顕著である。

人並み以上の収入や仕事、地位に恵まれても、仕事の時間に追われる生き方が一番望ましいとは思えないという価値観は、女性全般ではそれほど珍しいものではないし、企業・職業分野の第一線で働いていたり独自の職能・資格を持っているような人材を除けば、女性にとって『終身のフルタイム労働(政治的経済的な地位の上昇)』というのは憧れの対象とはなっていない。

例えば、ある女性が自分自身にフルタイムの雇用や職業の専門性がなくてちょっとしたアルバイトしかしていないとしても、配偶者である夫の職業・収入・保障がしっかりしていれば、日本ではその女性が『社会経済的に自分が不幸であるという意識』を持つことは少なく、世帯全体として裕福であればプチセレブののんびりした生活として憧れられたりもする。

日本には『戸籍制度や世帯・妻子扶養の意識・結婚や出産によるキャリア断絶(時にそれは女性本人の同意の下でもある)』が強く残っているということも合わせて考えていかなければ、日本が世界で特別に男女格差の大きな社会であるということの背景は見えてきにくいし、『ジェンダー教育・男女共同参画社会の推進』によっても簡単には変わらない日本ならではの家族像や世帯観(自分個人の政治経済の参加ではなく家族・世帯として人生を考える人も多い)もある。

『国際男女格差レポート』は136ヶ国(世界人口の93%)を対象として男女格差に関係する要因を、『経済的平等(Economic Participation )・政治参加(Political Empowerment)・健康と生存(Health and Survival)・教育機会(Educational Attainment)』という4つの分野で測定したというが、『同一労働に対する男女の賃金格差・キャリア志向(出世・上昇志向)の女性に対する不正な圧力や慣習』を除けば、政治家や経営者の数の比率が少ないとか、労働参加率が低いとかいうのは『日本の男性社会からの抑圧』と合わせて『長年の間に刷り込まれた日本的な家族観・性別役割の文化』の影響があって短期での解決は容易ではない。

仕事より家庭に入るほうが良いとか、フルタイムのハードで責任の重い仕事は避けたいとか(無理なく自由な時間も確保しやすいパート労働が望ましいとか)、別に政治家や経営者になりたくはないとかいった意識は、女性だけではなく男性にも認められることがあるのだから、『日本における男女格差・指導的地位に占める女性比率の少なさ』は男女のジェンダーの意識や伝統的な家族像・世帯観が共犯的にもたらした現状でもある。

その政治経済的な力に関わる男女格差によって、女性側の不利益だけが生じたわけではないという意味で、社会問題として提起することが難しい事情もあるが、そういった近代社会が重視してきた政治経済的な力を得るためには『支払わなければならない代償・負担』もある。

現代では特に『時間資源と経済資源の交換』に対する価値判断の個人差が非常に大きくなっていることもあり、お金・地位・評価のために自分の時間をどこまで投じても良いのかはかつてのものさしで測りにくくなっている。そのため、男女という性差にこだわらずともその人が『より高い地位・財力・権力・雇用』を欲しているのに社会的・慣習的な阻害要因によって邪魔されて得られないのか、あるいは本人が『現状のようなライフスタイル・ほどほどの政治経済的な力の配分(家庭内での役割や私的空間での楽しみなども含めて)』で満足しているのかというほうが問題だろう。

だが穿った見方をすれば、この種の男女平等の指標は世界経済を再活性化するために、『女性の労働力の総動員・潜在的GDPの掘り起こし』のほうに主眼があるとも言え、男女共同参画社会でないと経済成長を持続することが困難になったこと(その割には十分な質と量の雇用が世界特に先進国から減り続けているが)の現れでもあるのだろう。