映画『人類資金』の感想

総合評価 73点/100点

特定の民族や国家のためではなく、人類全体の公共的な利益と人々の公正な処遇・教育(能力開発)のために使われるべき旧日本軍が残した『M資金(Mankind Fand)』、このテーマは壮大であり興味を惹かれる。だが惜しいのは、世界観・人物相関の醸成とマネー経済(マネーゲーム)の掘り下げが不十分であるため、『M資金の運用・効果を通した可能性のリアリティ』が伝わってきにくいところである。

現在の資産価値に換算して約10兆円という金額も、『世界の理不尽な現状を変えるためのパワー』としてはインパクトが弱く、10兆円だとちょっとした多国籍企業の時価総額と変わらずAppleやGoogle、トヨタよりも総合的な資金力が弱い(アメリカの覇権主義に抵抗するというストーリーだが10兆円では米国の軍産複合体には全く歯が立たず世界を動かせそうにない)というイメージになってしまう。

旧日本軍が『本土決戦』に備えて日銀の地下倉庫に蓄えていた金塊を運び出した笹倉雅彦大尉は、『旧日本の体制の復活(対米のゲリラ活動など)』のためにこの金塊を使うことを拒絶して、目的外の金塊使用で祖国を裏切るつもりかと難詰する部下を刺殺する。一国家のメンツよりも大きな視点に立ち、人類全体の福利を増進させるための『M資金』の原資として旧軍部の金塊を盗み取った笹倉大尉だが、それ以降、その巨額資金は笹倉一族や米国のファンドにマネーゲームの道具として運用されることになってしまった。

子の笹倉暢彦(のぶひこ,仲代達矢)の代には、笹倉大尉の本来の理想は忘れられることとなり、日本の戦後復興や朝鮮戦争(米国の軍事)、高度経済成長、政財界の裏金、日米の経済関係などにM資金は流用されるようになった。しかし、孫の笹倉暢人(のぶと,香取慎吾)は、祖父の笹倉大尉の『M資金設立の原点(人類を間違った歴史の道から救い世界の人々を支援する)』に立ち返ることを目指し、米国のファンドが主導権を握って運用している時価総額10兆円の『M資金』を奪い取る計画を立てる。

旧軍部が秘匿していたM資金を自分が握っているという嘘をついて、出資金を騙し取る『M資金詐欺』を繰り返していた真舟(佐藤浩市)を、笹倉暢人は成功報酬50億円で雇う。真船の父親はM資金が存在するという伝説に振り回されて非業の死を遂げた人物だったが、親子二代にわたってM資金と深い因果がある真船は『M資金奪取計画』に口八丁手八丁のやる気を滲ませる。

生まれる国・土地によって全くその人の生きる運命が変わってしまう、貧困国に生まれれば潜在的な高い学習能力も発揮されないまま終わるという『国家間の格差問題』、アメリカの軍事戦略や価値観外交、大国の資源争奪戦の思惑によって振り回され遂にはテロ拠点として攻撃目標にされてしまった小国カペラ共和国を描くことで『アメリカ中心の世界秩序の不条理』も突きつける。

カペラ共和国出身のセキ・ユーキット(森山未來)は、小さい頃に暢人に命を救われたが、大国の代理戦争の趣きを呈した内戦で妹を失うというトラウマを負っている。笹倉暢人の教育支援によって、セキは6ヶ国語をマスターしたマルチリンガルとなり、敵を制圧するずば抜けた格闘技術・センスも開花させた。セキは『途上国の可能性のイコン(教育環境を整える事によって埋もれていた才能が発掘される事例)』として設定されている人物であり、米国のカペラ攻撃を回避するために世界に訴えかけるセキの英語での国連演説(アメリカの国連での妨害工作を乗り越える演説)が見せ場になっている。