高齢者の万引き問題と経済的困窮・社会的孤立

高齢者の万引きの要因には、『盗まなければ生活ができない』あるいは『できるだけ節約しないと生活が苦しい』という『無職(年金外収入ゼロ)・低年金・無年金・親族支援なしなどの経済的困窮』の要因が大きいが、それと合わせて周囲に自分の存在を認知してくれて語りかけてくれる(心理的なケアとしての対話をしてくれる)相手がいないという社会的孤立の要因も大きいだろう。

犯罪白書:65歳以上の高齢女性の万引き急増 刑務所へも

高齢化社会が進展して全人口に占める65歳以上の人口比率が上昇していること、核家族化が進行して夫婦のみの高齢者世帯、配偶者の死後の独居世帯が増加していることも合わせて考える必要があるが、『家族の少人数化(子・孫の数の減少),子・数がいる人の場合でも別世帯化』によって共同生活的な相互扶助機能の喪失、人的な支援や対話機会の欠落という変化も急速である。

年金収入や金融資産などの経済状況は、『高齢者の活動範囲・交友関係・アクティビティ』にも一定の相関があるはずで、『低年金・無年金・無貯金』だと高齢者同士の遊びや会合にも参加しづらくなり、基本的に旅行・買い物(街遊び)・食べ歩きなどのお金のかかる遊び方はできなくなる。

それは高齢者に限らず年齢が若い人でも同じような社会的孤立の構造でもあるが、現代では『地縁・血縁といった所与の関係性』を煩わしく思う人も増えている。

同じ土地に住んでいるから(同じ学校に通ったから)とか親族関係があるからといった所与の理由だけで長く付き合う人が減り、『相手にとっての自分の魅力・楽しさ・面白さ』など何らかの誘因がなければなかなか継続的に会って話したり遊んだりするような関係を維持するのが難しくなっている。

『お金の問題』だけではなく『対人関係をつなぐ魅力・人間性・積極性』といった部分での差も大きくなっている(自分から進んで一人や少人数で活動するのが好きという人もいるので一概に交友関係が豊かであれば良いというわけでもないが)。

高齢者になるとなおさら、同世代の類似した環境の友達や福祉的・NPO的な会合・サービスで話し相手や遊び相手を見つけられる人でないと、『家族以外の他人との付き合い』はなくなり、配偶者が亡くなると完全に孤立して、認知機能(現実的・社会的な対応処理能力)も急速に衰えてしまう人も少なくない。

万引きの常習犯には高齢者でも若者でも、『お金に困っていて(お金をまっとうに稼ぐのが嫌なども含め)ただその商品が欲しいという単純な動機』が中心にある一方で、『万引きという犯罪行為を通してでも社会や他人との接点を持ちたい(延々と続く孤独感に耐えきれない)という心理的な動機』が関係していることも多い。

万引きして捕まり店長から説教されたり宥められたりするような時間、警察に引き渡されて拘留されたり司法手続きをされる時間は、普通の人にとっては『社会的信用が毀損されたり自尊心が傷つけられたりといった不安で苦痛な時間』にしかならないが、先行きが長くなくてすでに職業活動(社会的信用が重要になる活動)もしていない高齢者にとっては『誰もかまってくれない自分にかまってもらえる時間』としての報酬効果を持ってしまう可能性がある。

用事もないのに寂しくて警察や消防救急に何回も電話して、威力業務妨害で逮捕されるような人の心理的原因も似たようなものだろうが、『トラブルを起こすことによって人からどんな形であっても構われたいという動機』は犯罪行為に限らず酔っぱらって管を巻いたり喧嘩を吹っかけてみたり、家族内・知人間でわざと嫌われるようなモラハラをしたりといった『人と正攻法でつながるための接点・魅力・話術・積極性』がない人たちとも共通するものである。

高齢者の万引き問題でも、物質的欠乏と心理的孤独の両面からの対応策が求められるが、心理的ケアや孤独感の解消というのはある意味では生活保護・食品配給などよりも大きなコスト(実際に関わってくれる人の時間・労力)のかかる対策であり、行政も周囲の人も及び腰になりがちではある。