『現代のベートーベン』という佐村河内守のキャッチフレーズや聴力の喪失が、

虚偽に基づくものであっても、その作品自体のクオリティや人間性の評価は別であると思うが、近親者である妻の母からここまで完全に信用されず非難(否定)だけをされる人柄・生き方というのもまた問題が大きいことの現れではあるのだろう。

16年間も母にまったく会いに行かないというのも異常ではあるが、佐村河内氏との結婚の影響と合わせ、妻とその母親の親子関係自体が初めから余り良くなかった可能性もある。

端的には、享楽的な仕事嫌いの遊び人としてのキャリアが長く、佐村河内氏が結婚してから7年間で20万円しか稼がなかったというのは、ほぼヒモとしての生活を成り立たせていたということだろう(記事になっている範囲では専業主夫としての仕事をこなしていたというようなこともなさそうではあり)。

こういった生活実態は、売れないお笑い芸人や歌手(アーティスト)などにも多いといえば多いが、佐村河内守氏は『身体障害(耳が聴こえない)のハンディキャップ+音楽分野の特異な才能』というメディア受けしやすい設定を考えて、音楽分野での一発逆転的な勝負に出たのだろう。

しかし、パートナーとして選んだゴーストライターの作曲家の心理(欲望と不安)を十分に把握していなかったことにより、今までついてきた嘘のキャラクター設定が露見して作曲の才能がないことがばれてしまった。

代作のゴーストライター問題を自ら告発した桐朋学園大の新垣隆講師(43)も、世間・ファンに嘘をついているという『良心の痛み』から暴露したというよりも、予想以上に知名度が上がってしまったことで、これ以上嘘を重ねてばれたら大変なことになるという『保身の感情』から暴露したに過ぎない。

きっかけは、『新潮45 11月号』で『佐村河内は耳が聞こえているのではないか』という疑惑が出たこと、ソチオリンピックのフィギュアスケートで、髙橋大輔選手が佐村河内守作曲となっている『ヴァイオリンのためのソナチネ』を使うことを知って、高橋選手まで虚偽に巻き込んでしまうと思ったことだという。

だが、実際はどんどんと佐村河内守の知名度や評価が上がり話が大きくなっていることへの不安・恐れといったことであり、そのリスクに対して十分な報酬をもらっているわけではないという不満もあったのではないかと思う。

報酬は18年間で20曲以上を作って720万円ということのようだが、どれだけのCD・配信・コンサートの売上があったのかは知らないが、佐村河内氏の報酬と比較した場合にはやはり、『自分が作曲している割には不当に少ない報酬だという不満(暴露する以前の報酬の配分に関する増額の申し出など)』があったのではないかとも思う。

耳が聞こえるのではないかという疑惑が持ち上がったことで、『佐村河内守ブランドでの商売の先行き』が長くないと予想してしまったこと、『佐村河内のために必死で隠し続けるほどのインセンティブ』があるわけでもないことが決定打になったのだろう。

18年間も協力しておいて掌返しで暴露するという背後には、佐村河内氏と新垣隆氏との間に何らかの『感情的・経済的な対立』が生まれていた可能性が想定されるし、良好な関係であれば緩やかに『共作者の方向性』へとシフトして売り込んでいってもいいわけだから。

虚偽が世間に晒されるやいなや逃げるようにすぐに雲隠れして、『夫婦で自害しお詫びしようと思います』といった脅迫めいたメールを新垣氏に送りつけた佐村河内氏の人間性も疑問ではある。

母親のいうように娘(佐村河内の妻)が一方的な被害者やマインドコントロールを受けた可哀想な人と断定できるかも分からないが、16年間も一緒に過ごしていて佐村河内の暴力による支配のようなものがないのであれば、自らの意思で共犯関係にあって協力している(ようやくまともに稼げるようになった佐村河内を可能な範囲で支援していた)と解釈するほうが自然ではある。