クリミア自治共和国がロシア編入を選択した住民投票の正当性と日本の対ロ制裁

EU加盟を巡るウクライナ情勢の混乱、親露のヤヌコビッチ前大統領の不正蓄財や政敵弾圧に象徴される政治腐敗によって、キエフを首都とするウクライナ全体は『EU連合協定調印』に大きく傾き、親EU路線に同調しないウクライナ内部のロシア人とのアイデンティティ対立が鮮明になってしまった。

言語・文化・歴史・価値観において、EUよりもロシアに親近感を感じるウクライナのロシア人達は、ウクライナ国内では少数派であるが、クリミア自治共和国など領域を限定すれば、ロシア人のほうがウクライナ人よりも多数派勢力を形成することができる。

クリミア自治共和国単独であれば、住民投票において『ロシア編入の賛成票』が過半数になる目算が強かったが、今回の住民投票では約6割のロシア人比率よりも圧倒的に多い9割以上のクリミア自治共和国の有権者が賛成表を投じている。

クリミア半島における民族比率を考えても、異常なまでに賛成票(ほぼ全員が賛成)が多くなっており、実質的にクリミア半島がロシア軍に包囲されて監視されていることを考えれば、この住民投票の正当性(間接的な賛成票の強制)が疑われても仕方がない。実質的に、ロシア軍の武力と言論(異論)の統制が後押しした編入賛成の住民投票に過ぎないというのが、ロシアに制裁を科そうとしている欧米諸国の見方である。

ロシアのプーチン大統領は『クリミア自治共和国の住民の投票結果を尊重する』という民族自決とロシア人保護の名目によってクリミアをロシアに編入し、『強いロシア』の象徴的な外交成果を上げようとしているが、『ロシアとウクライナのクリミアを巡る外交対立』と直接的な利害関係のない日本は、自由主義圏の欧米に同調しておくという無難な選択をした。

今回は、いつもであればロシアとタッグを組んで、欧米提案の国連安保理決議に反対してくる中国もロシアに賛同せずに投票を棄権しているため、ロシアの孤立感が浮き彫りになった。ロシアはクリミア編入を支持してくれる外国勢力がほぼ皆無となったが、中国としては『民族自決による自治区の所属変更』は、『一つの中国の基本理念(チベットや新疆ウイグルに対する清朝からの歴史的包摂の正当性)』と違反するところもあり賛同しがたいと思われる。

ウクライナの極右勢力の台頭や排外主義的な弾圧も懸念される中、ロシアのナショナリズムが、クリミア維持を図るウクライナのナショナリズムと正面衝突するような事態は避けなければならない。そのためには『ロシア軍の完全撤退』をして国際的な選挙監視体制を整えた上で再度投票をすべきだろう。

ロシアが武力による領土拡張の野心を疑われないためには、クリミア自治共和国を編入するよりも、独立させ支援するほうが望ましいのではないかと思うが、ロシア人にせよウクライナ人にせよ、『自民族中心主義による排他的な体制(多数派民族の専制・優遇)』を再構築すればまた大規模な弾圧・対抗デモが発生する恐れがある。

多民族共生のベースから外れないような新政権づくりが前提となるように、国際社会が一致団結して誘導すべき必要があるが、EUとロシアがお互いを仮想敵国に近い位置づけで睨み合うなら『クリミア半島』が再び危険な火薬庫になりかねない。

ウクライナもクリミア自治共和国も単独では経済運営に行き詰まるほどに財政が悪化していることから、EUとロシアはこの中間地帯にある国家群を民族主義を煽る綱引きで奪い合うのではなく、経済・財政・国民生活を再建して政治腐敗を一掃するような改革路線の後押しで協調すべきだ。