スイスのベーシックインカム(BI)が否決:労働・不労を選択できる実験的ユートピアは実現するか?

スイスのベーシックインカム(BI)法案が反対多数で否決された。完全BIは巨額予算でそれ以外の社会保障を削減してしまう。更に安価な娯楽の多い(時間価値の高い)現代では、大勢が節約生活に走って労働意欲も落ちやすいから、現時点では持続しない『実験的ユートピア思想』に近い。

スイスで最低限の所得保障めぐる国民投票、反対多数で否決

自己の経済的利益を最大化する為に効率的に行動するという、近代経済学の経済人の前提が通用しないのが、成熟経済状況の過去の富・インフラに依存した高度情報化社会でもある。最低限の生活水準を満たす完全BIではなく、生活援助の部分BIのほうが現実味はあるが、完全BIの強みは行政コスト削減にあるとは言われる。

理論的には日本の物価水準に当てはめて月額二十万円以上を全員に支給するような『完全BI』に実現可能性が出る社会は『労働のロボット化・AI化などによってどんなに働きたくても無給でも人が働けなくなった社会』だろう。人にしかできない社会的需要の大きな仕事が多い社会では完全BIは労働供給減の副作用が出るはず。

完全BIを給付しても上手くいく考え方としては、月10万円のアルバイトをしている人に月20万円のBIを支給してもバイトはやめずに合計30万円の収入を得るはずというのはある。それほど嫌な仕事でなく職場の帰属感・人間関係が良ければ、仕事を続け追加収入を得る人がいるが、そうでない人の比率がどうなるかだろう。

完全ベーシックインカムは、経済身分を撤廃した国民の旧貴族階級化(有閑階級のジェントリー化)だが、視点を変えれば人類がいてもいなくても良い『自動化・機械化社会の到達点』だろう。だが長期的には『人類衰退というか先進国没落の兆候』になるはずで、実験的ユートピア思想の多くは地獄の門となりやすい……

低所得層への生活援助効果が強い『部分BI(日本の物価なら月6~9万円くらいか)』、労働が困難になってきた高齢者を支える『最低保障年金』なら、10年程度のスパンでも実現の可能性があるというか、生活保護を求める生活困窮者の増大によってそういった直接的な給付金の積み上げが政治的に要請されてくる恐れがある。

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