教育格差(学力格差)と親の学歴・収入との相関による格差の世代間継承問題:どんな家庭環境や親の態度が子の学力を伸ばすか。

親の学歴・収入が高いほうが子供の学力(学習成績)が高いという相関関係は、『教育格差の世代間連鎖』や『格差固定(階層分化)の要因』として取り上げられることが多く、そういったことから生まれた家庭・親が悪ければ努力しても無駄だという極論にも行きやすい。

「親の年収が高い子どもの学力は高い」と調査結果、これはどう考えたらいい?

だが、教育格差の根本的な原因は『子供に対する学習の動機づけ・親も一緒に学ぶ姿勢』や『学習環境や対話環境の整備・科学や教養の世界への自然な導入』にあり、教科の成績のみに関して言えば、必ずしもお金があれば塾・学校・家庭教師などに多額の教育投資をできるから有利だという話ではない。

学歴・収入が高いほうがより多くの教育投資をしやすいから学力の格差が開くのではなく、『人生における勉強や教養の必要性・有効性・面白さの認識のレベル』が高い人が高学歴者・高所得者には相対的に多いため、小さな頃から子供の学習・知的好奇心の動機づけが自然に高められやすいという有利さがある。

それは、単純に遊ばずに勉強しろとガミガミうるさいだけの親というわけではない、それぞれの年代に見合った『学ぶことの面白さ・問題を解ける楽しさ・幅広い分野の知識を増やしていく好奇心』を普段の何気ない会話や家に置いてある本(読み聞かせする本)などから伝えられる親ということであり、学者の子供が同じ分野の学者になりやすい世代間連鎖の要因なども、『家庭環境における親との会話内容や家にある本のゆるやかな専門性』に影響されているとも言われる。

親自身がまったく向学心も知的好奇心もなくて勉強はただつまらないもの(無理矢理にやるだけのもの)と思っていれば、子供もまた同じように勉強や知識の世界そのものに興味関心を持つとっかかりを得にくく、『親がいう勉強=テストの数字・将来の損得だけの面倒くさくて難しいもの』というネガティブな認識になって、勉強・学習の動機づけが高まりにくい。

有用な知識を学んだり問題を解いたり認識(世界観)を広げたりできる勉強のイメージそのものをずっと持てないままだと、勉強はただ『できればやらずに済ませたいもの・点数や実利以外には何の面白みもないもの』という位置づけになり、更に遠ざかってしまい苦手意識も高まる。

親が勉強の内容に興味がなくむしろ勉強を嫌ってさえいるのに、子供にだけ勉強をしろといっても逆効果であることが多い。学歴が低いほど子供の学力が伸びにくいとしたら、学歴そのものが問題というよりは、『勉強・知識・教養の価値やおもしろさ』を頭から否定してかかっている態度のほうが影響が強いと考えられるが、意外に『勉強なんて大人になれば何の役にも立たない・知識や教養のある人は鼻持ちならず人間として問題がある人(理屈ばかりで面白みのない人)が多い』といった考えを持つ人も少なくない。

学歴が高い親のほうが子供の学力が高くなりやすいもう一つの要因は、『その親が獲得してきた職業・所得・名誉・地位などの始点』にあるものが学歴(学校教育における正攻法の成功体験)であることが多いからで、親は自分がやってきてそれなりに仕事や利益、名誉につながってきた勉強の価値を、そういった成功体験がない人よりも高く評価しやすいからである。

その意味では、勉強は学び方や広げ方を知れば面白いものだし、勉強ができればできないよりも得なことがあるという根本的な信念が、意識的にせよ無意識的にせよ子供に伝わりやすいということである。

反対に、芸能人やスポーツ選手、一流の職人のようなペーパーテストではない『自分の腕・技術』を頼りに大きく稼ぐような職業では、『学歴・勉強の相対的な価値』が低く見積もられやすく、『自分は勉強はまるでできなかったが人並み以上に成功して稼いでいるとの認識』から子供にも同じような道を勧めることはある(人脈のコネといった社会関係資本の利点もあるので、二世三世の芸能人・スポーツ選手は実際に多い)。

あるいは、芸能人・スポーツ選手として成功してお金や名声はあっても、学歴・教養がない(俄仕込みの勉強では本当の文化的教養的な世界に入っていけず、インテリから軽んじられているのではないか)という劣等コンプレックスから、子供に一流の教育を授けて高学歴・学位を得て欲しい(自分とは違う文化・教養・知識に満たされたインテレクチュアルな生き方をして欲しい)という強い期待を持つ親も少なくはない。

また小学生くらいまでの子供の学力(その後の成績にもつながる基礎学力・知的好奇心)は、父親の学歴よりも『母親の学歴(勉強の肯定的な興味)・子の学習への協力度』と強く相関されているとされており、小さな子供は個室に入れて一人で勉強させるよりも、リビングルームなどで母親が一緒にいる状態(分からなければ教えてあげる状態)で勉強したほうが情緒も安定して学力が伸びやすいというのも言われることがある。

フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、子供の学力格差の要因として親の『文化資本(cultural capital)』を特に重要視したが、文化資本というのはただ親の学歴・キャリアを指すこともあるが、それ以上に『文化的素養・教養趣味・知的好奇心』といった子供の動機づけや内面・習慣に感化的な影響を与え得るソフト面のことを指している。

ブルデューは子供の学力に影響しやすい文化資本について、『資本として機能するものの中で、蓄積することで所有者に権力や社会的地位を与える文化的教養に類するもの』と定義した。

『学歴・資格・本の蔵書・楽器や芸術品・知的な対話や生活習慣』などの文化資本が豊富であればあるほど、学校教育と親和的な生活習慣・動機づけが高まりやすくなり、その結果として学業成績も向上しやすいとしたが、こういった『単純なお金』に還元しにくい文化的・環境的な要因も教育格差につながりやすく、また経済支援だけでは学力が向上しない理由にもなっている。

一方で、現代社会の抱える問題として、家庭・親の文化資本が裏付ける『学校教育・学歴取得との親和性』が必ずしも『企業適応・市場経済(お金を稼ぐ労働市場の需給)との親和性』に結びつかない場面が増えているということがあり、知的好奇心や研究分野へのこだわりの過剰(一般的な労働意識・経済観念からの乖離)から、ポスドクの就職難や高学歴ワーキングプアの問題が派生的に生まれたりもしている。