映画『イニシエーションラブ』の感想

総合評価 74点/100点

前田敦子か木村文乃のファンであればより楽しめる作品で、懐メロな歌謡曲をBGMにしてメッシーやアッシーの言葉が乱舞した『バブル期のイベント中心型の恋愛』をシュールに描いている。

カセットテープになぞらえ、もてない大学生と歯科助手の出会いを描いた『Side-A』、就職後の遠距離恋愛と二人の関係が次第に冷え込み破局に向かっていく『Side-B』の2部構成になっていて、ラスト5分で『物語全体のネタばらし』といった流れになっている。

舞台は1980年代の静岡県、外見に頓着しない冴えない肥満体型の大学生・鈴木は、数合わせで呼ばれたやる気のない合コンで、爽やかに微笑みかけてきた歯科助手のマユ(前田敦子)に一目惚れする。鈴木は真面目な理系の学生で大手企業に内定が決まっているという魅力はあったが、学生の段階では全くモテなかった。

自分なんて相手にされるはずがないと思っていた鈴木だが、マユのほうから接近してきて、合コンメンバーで出かけた海水浴で電話番号を教えてもらい、二人の付き合いが始まる。鈴木は名前を文字って、マユから『たっくん』と呼ばれるようになった。

初めての恋愛経験に驚いたり感動したりしながら、マユに少しでも釣り合う男になろうと思い、髪型やファッションを変えて自分磨きをしていく鈴木だったが、通りがかったカップルの男から外見を揶揄されて、ダイエットをして体型を引き締めることを決意する。

『Side-B』になると、完全に外見のイメージがチェンジした鈴木(松田翔太)は、東京本社に勤務することになり、静岡に住むマユとは遠距離恋愛になる。初めは一目惚れして憧れに憧れていたマユとの交際だったが、年月が流れるにつれて新鮮味も薄れ関係もマンネリ化してくる。

たっくんのマユに対する扱いは、以前とは変わり次第にそっけない愛情の感じられないものになっていき、仕事のストレスやマユの変わり映えのない性格・生活に対しても感情的に怒りやすくなっていく。マユに会いに行く頻度も減っていたが、そこで出会ったのが会社のクールな美人の美弥子(木村文乃)だった。

鈴木の同僚の海藤(三浦貴大)も美弥子のことが好きでつきまとっていたが、美弥子が興味があるのは鈴木だった。一緒に仕事をしてランチを食べに行ったり、鈴木が美弥子の夜の残業を手伝ったりしていくうちに、次第に二人の距離は縮まっていき、美弥子のほうから直接的にアプローチしてくるが、マユとの関係も完全に終わらせられない鈴木は迷っていた。

かわいこぶりっ子でパート的な仕事を地道にこなすマユとクールな雰囲気でキャリアの仕事をこなす美弥子は、『外見・性格・生き方・価値観・付き合い方』において全く対照的なタイプの二人であり、後に出会った美弥子のほうが新鮮さと性格の落ち着き、現在の自分の仕事の理解度などにおいて優っているように感じられてしまう。一方で、自分のことをひたすら信じて頼っている風のマユを、こちらから切り捨てて別の女を選ぶことへの罪悪感もある。

ドライブの途中で、マユから妊娠したかもしれないという話を打ち明けられ狼狽した鈴木だったが、『妊娠していたら結婚しよう』ということは切り出した。その時は、鈴木の結婚の提案に対して、マユのほうが『どうしよう』というばかりで、結婚の申し出に対して明確な返事をしなかった(これもラストのどんでん返しの伏線ではある)。その後に妊娠していたことが確定した時には、鈴木は美弥子と浮気して気持ちが移りかけていたこともあり、出産や結婚ではなく中絶して欲しいと申し出る。

中絶後に二人の関係は次第に冷え込み、鈴木の態度もますますそっけなく愛想のないもの(怒りやすい暴力的な性格)になって、ちょっとした名前の言い間違えから喧嘩になり、鈴木はマユの部屋を飛び出していった。はっきりとした別れ話はしなかったが、鈴木はこれでマユとの縁が切れたものとして、美弥子との恋愛を始めることになる。

一目惚れした女を飽き・浮気・中絶で傷つけて、新たな女に乗り換えた鈴木の身勝手さと悪さ、可哀想な運命にはまりこんでしまったマユのつらさ・可哀想な立場が目立つ物語展開なのだが、『最後の5分間のタネあかし』でそういった善悪・責任の印象がどう変わるかという仕掛けありきの映画でもある。

気づく人は早い段階から、二人の関係の真相というか映画の見せ方の仕掛け(場面の見せ方の順番によるトリック)に気づいてしまうと思うが、バブル期の真剣だか計算だか分からないドタバタな恋愛劇の面白みは伝わる。

タイトルの『イニシエーションラブ』とは、相手から傷つけられて男女関係の機微を知ることになる通過儀礼的な恋愛(計算が上手の相手から教えられる恋愛)のことなのだが、美弥子がいうようにマユにとって鈴木との恋愛がイニシエーションラブだったのだろうか。

エンドロールでは1980年代の恋愛・男女関係・時代背景の用語解説みたいなものも加えられている、僕はいわゆる『バブル世代』よりも少し後の世代だが、こういった感じだったなという懐かしさもあった。

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