AV出演強要事件から考えるリスク・対応(自衛)・誘惑:どうしてこんな子がという若い女性が出る現代の心理欲望的・社会経済的な問題と構造の分析

『AV出演強要』の一般的な構造は、スカウト担当者がアダルトの勧誘である事実を隠して、容姿を売りにする仕事の中で、『芸能界・グラビア・モデルなど若者にステータスのある仕事のスカウト』であるように見せかけて“判断能力・社会経験・自己規定”が未熟な若い女性を勧誘することから始まる。

AV出演の義務や違約金を定めた契約内容の詳細を伝えずにわざとわかりにくくして、とりあえずサイン(署名・捺印)をさせて身分証(実名・住所・大学など個人情報)の控えを取ることで、そのサインを契約内容の合意の証拠として出演を強要したり脅す材料にしたりする構図がある。

不本意にAVに出演させられる被害を未然に防ぐためには、『簡単に契約書にサインしないこと・一回の出演という既成事実(親にばらすなどの脅される材料)を作ってしまわないこと・サインしても一般基準において公序良俗に反する仕事内容を必ず履行しなければならない義務があるわけではないこと(弁護士や法律専門家のいるNPOにまず相談してみること)』を意識しておくべきだろう。

脅し・甘言・交渉でパニックになってもその場で同意・出演をせず、紋切り型のフレーズとして『弁護士に相談してから返事をします』と答え、その場をまず何とか離れることだが、実際に強要・脅迫のプレッシャーを感じている場合でも弁護士同伴で現場に赴いて契約無効の交渉をしてもらえば、相手も後ろめたい部分があるだけに面倒事を恐れて契約書をその場で破棄してくれる可能性は高い。

同じ女優であってもその経路が、『自分自身で応募してくる人(経済的困窮・興味本位・成り上がり)・風俗業界などで知人から紹介される人(AVと知りつつ報酬に納得して参加してくる人)・借金返済などの理由から参加する人・思慮が浅くお小遣い稼ぎの感覚で参加する人』と『容姿が魅力的であるために業者側から勧誘される人(中途半端な説明で雇用契約などにサインをさせられその後は脅し・甘言・報酬・既成事実などで言いくるめられて流れに乗せられる人)』では事情が異なると思われるが、出演強要が問題視されるのは後者だろう。

業界のスカウト担当者は若くて爽やかな清潔感のあるイケメン風の男であることも多い。悪意なさそうなイケメンがきちんとスーツを着こなして社会人としての礼節も守りながら、『容姿やスタイルがずば抜けて綺麗で目立っていたからちょっと声をかけさせて頂いたんですけど、芸能界やモデルのお仕事に興味はありませんか』と柔らかい物腰と爽やかな笑顔で声をかけてくる。

この時点ではコワモテな強要や威圧的な雰囲気などあるはずもなく、見た目さわやかで礼儀正しい感じの悪くない青年(あるいは自分もその事務所で仕事経験があるという眉目秀麗なスーツ姿の綺麗な女性かもしれない)が、『お時間がよろしければ、お仕事についてご説明だけでもさせていただきたいのですが、そちらのカフェでいかがでしょうか。説明はすぐに終わりますし、興味が湧かなければ断って頂いて全然構いませんから、気軽にお願いします』と来ると、押しに弱くて暇な女性やそれなりに容姿の自己評価が高くて芸能・モデルの業界に興味のある女性なら、お茶くらいいいかと思って話を聞いてしまう可能性はある。

自分自身を欲求対象として誘ってくるナンパは警戒されやすいが、自分自身を人材として評価してくる仕事のスカウトとなるとナンパよりも警戒されにくい。そこにカメラでも回っていて『アンケート(インタビュー)をお願いできませんか。ケーブルテレビの美人に○○を聞くというコーナーなんです』とでもくれば、ちょっと自己愛や好奇心、承認欲求が強い若い女性ならコロッと騙されてしまう人がいてもおかしくはない。

裸体を晒したり性的な行為をしたりするアダルトコンテンツの番組で、顔にモザイクをかけるとか少数の購入者だけにしか公開されない(だから知り合いにはばれない)とか嘘をつかれて、数万程度のわずかな報酬で要求に応じてしまう人もいるだろう。

だが現代のネット社会では、一度撮影された性的な映像・画像は半永久的にコピーされて残り続ける、完全には過去の不名誉な記録を消すことができない(それでも別に構わないくらいの腹を括った顔・体・性を売るプロなら何も言うことはないが)と慎重過ぎるくらいに考えておいたほうが良い。

裸体・性行為を恋人・配偶者に撮らせるようなレベルの話でも、『将来のネット流出・脅迫・リベンジポルノの潜在的なリスク』になってしまうのだから、見ず知らずのどこの誰か分からない業者に撮影させるリスクは相当大きい。

業者のスカウトは名刺・資料・連絡先などを渡してきて、簡単なアンケートに答えてくださいということで、女性は氏名・職業・メアドなどの大まかな個人情報を相手に取られてしまうかもしれない。芸能界・モデルをちらつかせる騙しでいくか、AV勧誘の直球勝負でいくかは、女性の倫理観・金銭欲・仕事観によって変えてくるだろうが、騙さなくても条件交渉だけでいけそうな女性であれば初めからAVであることを前提に話すケースもあるだろう。

名刺・資料にあるプロダクションのウェブサイトにアクセスしてみると、AV業界との関連を疑わせる要素のない清潔感のある白基調のデザインで、在籍している容姿端麗なタレントやモデルの写真・実績が紹介されているだろう。有名な芸能人・モデル・映画・テレビ番組・雑誌と何らかの仕事上のつながりがあるかのような虚偽の会社情報も記載されているかもしれない。スカウト担当・ウェブサイトなどの総合的な雰囲気から、『怪しくない会社・仕事のイメージ』を持ってしまうと、連絡を受けて事務所にまで足を運んでしまうかもしれない。

契約書の作成・確認とサイン(署名・捺印)までのプロセスを踏んで、出演・撮影・作品販売・ウェブ公開へと進んでいく。

契約書のサイン後に、AVとははっきり言わなくても『セクシービデオ・グラビアの過激な作品・性的要素のあるイメージビデオ』などを撮ることが芸能界・モデルの登竜門になるかのような虚偽の説明はあるかもしれないが、説明を聴いて怪しいとかやっぱりやめたいと思えば、出演して撮影される前であれば無傷でやめられる、違約金を払えとか周囲にばらすぞとか脅されてもとりあえずドタキャン・無視をして上記したように弁護士に相談すればいいだけである。

一回も出演経験がなくて本人がそこまで嫌がっているのであれば(まともな性行為の演技が期待できないのだから)、業者も口ではあれこれ言うだろうが、そこまで執拗に追いかけてこずに別の女性に勧誘先を切り替えるだろう。

平成に入って単体AV女優の外形的なクオリティーは芸能人に迫るほどに上がった(あるいはちょっとした芸能人・アイドル・グラドルがAVに落ちやすくなった)とも言われ、無名の出演者(芸名もないようなほぼ素人)でもそれなりに魅力のある(一般の恋愛や結婚でも良い男に選ばれそうな)女性は増えている。

その要因の一つに『甘言・脅し・騙し・薬物・借金漬けといった非合法的な手段』が絡んでいる可能性はあるが、それと合わせて『女性の貧困化・成育家庭(親子関係)の貧困と崩壊・まっとうな労働価値(結婚価値)の下落・一夫一婦制を指向する男女のロマンス幻想の破綻・美人(セクシーさ)のインフレ・ビジュアリティー重視(容姿を売る仕事への憧れ)・女性の承認欲求や自己愛の肥大・性的早熟と性道徳の部分的な崩壊・人生の堅実な計画性や倫理性へのこだわりの弱化』などを考えることができるだろう。

どうしてこんな子がリスクだらけのAVに出演するんだろうというような美人(可愛い子)を見て、『頑張れば芸能界にでも入れそうなのに』とか『普通の恋愛・結婚で十分過ぎるくらいに男が寄ってきそうなのに』とかいう感想を抱く人はいるだろうが、現代ではちょっと人目を引くくらいの美人(化粧・ファッションの効果も過去の時代より格段に大きい)はいくらでもいてインフレ状態にあるので、『容姿・スタイルの良さ』だけで芸能人や女子アナになって食っていけるわけでは当然ない。

一流芸能人やモデルは容姿だけではなく『演技・歌唱力・創造性・ダンス・スポーツ・血統や育ちの良さ・学歴・教養と話術・出演作のキャリア・人生の物語性』などの地道な練習や学習、適性などで積み上げた長所があり、ただ美人なだけ、ただ可愛いだけの女性の芸能人としての市場価値はほとんどゼロに近く、表層の容姿だけのレベルは芸能人の人気にとってそれほど本質的なものではない。

芸能人・モデル・セレブの華やかな世界に憧れるようなちょっと見た目が良くて自己評価の高い女性で、努力・苦労の積み上げは余り好きではないがみんなに承認されてちやほやされたいとか、これくらい美人な私(過去のモテてきた私)なら『普通ではない特別な人生』を歩めるはずなのに今の自分の人生・仕事・恋人はパッとしない(このまま地味な人生で終わりたくないが会社で仕事をしても男と結婚をしても大した結果が出せそうになくてつまらない)と思っているような人が、手練手管で甘言や誘惑を囁いてくるAVのスカウトに落ちやすいタイプかもしれない。

若い頃に容姿(性的魅力)でも学力でもスポーツでも何かに少しだけ秀でていてそれなりに評価されてきた人は、男女を問わず、実社会における自分の相対価値を現実以上に高く見積もりやすい(本来の自分はもっと素晴らしい存在として認められて然るべきなのにと思いやすい)ものだが、『夢見がちで人生・仕事を甘く見過ぎている』と、その『肥大した自己愛・承認欲求』に付け込んで利用しようとしてくる狡猾な口の上手い人間の前で『無抵抗なカモ』になってしまう。

欲・見栄が張って幻想の自己に酔っ払っている人間ほど、詐欺師に騙されやすい存在はない。そういった非現実的な自己愛と可能性に溺れる人間は、ちょっとおだてればどこまでも木を登っていってくれるからだ。『利用しているはずの人間』に逆に『利用されてしまって泣きを見る』の落ちがつきやすい。若い時期には時に、おだてられると無知・傲慢・軽率の戒めが難しい人も出てくるが、結果的に自分で自分を守ることに他ならないので、最低限の自戒・自制はやはり持っておくべきなのだ。

どんなに美人だろうが可愛かろうが、学歴・経験がなく新卒採用の正規雇用で就職しておらず、仕事上の卓越したキャリアや専門性、資格・能力がなければ、時給1000円前後のアルバイトに従事するしかない女性も多い。

確かに、学校や職場にいる周囲の男にはモテてちやほやされるかもしれないし、ちょっと格好良い男に告白されて付き合ってくれと言われるかもしれないが、『それなりに美人(運があれば芸能人になれたかも)と思っている自分の欲望』と照らし合わせれば、周囲にいる会社勤めやフリーターの凡庸な男が与えてくれるものは余りに小さいか不足しているという傲慢な思いも心を過ぎる。

なまじ色々な男に好かれて付き合ったり関係を持ったりを繰り返すと、職業や所得の条件の良い男性、誠実に自分を愛してくれそうな男性を一人だけ選ぶという恋愛・結婚のプロセスにも『物語的・特殊的な感動・幸せの意味づけ』ができなくなり、若くていくらでも恋愛・結婚のチャンスがあるように感じられる美人は特に『一人・婚姻に縛られる不自由感やそれ以上の発展性の乏しさ』が嫌になってしまう。

何より、容姿・性的魅力の平均以上の自信だけを根拠にして(あるいは成育家庭や親子関係や性被害のトラウマの影響もあるだろう)、人生や仕事を甘く見てしまう傲慢さ(あるいは自分にはそういった幸福は合わないという斜に構えたスタンス)によって、『人並みの結婚生活・男女の愛情・経済状況・出産育児などの価値』をそんなものは自分なら得られて当たり前という人生観の歪み(事後的になぜあの時にまっとうにやらなかったのかと後悔することも多い歪み)が生まれてしまうのである。

根拠が伴っていない空虚な上昇志向や自己特別視というか、地道な努力をせずにもっとステータスや大きな稼ぎを得たい(本来の自分の外形的な魅力が認められれば普通の仕事・結婚などではないもっと良い待遇が得られるはずなのに)という怠惰・傲慢さ・甘さというのは、AV業界を含め、『虚栄心・成り上がり・自己愛・金銭欲に漬け込んでくるアングラな業界人』にとっては正に誘い込みやすいターゲットの特徴になってしまう。

AV出演強要事件やAV女優の権利保護から外れた論考になってしまったが、『カタギな仕事の待遇・恋愛や男女の幻想・結婚の価値』に満足できていない人が増えていればこそ、貧困問題もあるが、どうしてこんな子がという女性がAVに出演してしまうような心の隙間・自己像の歪みが生じやすいと言える。

男性であっても『普通の仕事・稼ぎ・男女関係・人生』を甘く見るような自惚れた人生観や刹那的な生き方の歪みというのは、その場では何とか面白おかしくやれても中長期的には容易には取り戻せない後悔・損失の起点ともなりかねないわけだが……現代社会の生きづらさというか自己アイデンティティの拡散というか、『価値相対化の波(伝統的にベーシックな人生の価値とされたものの相対化)』によって物語的・倫理的なまっとうな自己規定が押し流されやすい。

なまじっか若い時期に自分を自惚れさせる何ものか(特技・長所・魅力能力)を持った人ほど、快楽的・自己愛的な易きものにブレてしまいやすいリスクに晒されやすいところがあるが、自惚れや甘さはいずれ人生の現実原則によって打ち砕かれる、『普通であること・無難に生き抜くことのハードル』の高さを再認させられる。

『努力・鍛錬・教養』の積み上げを軽んじたままで、美貌・セックス・一時の高収入だけでいい加減にやりきれるほど甘いばかりの人生が自分だけに特別許されているという結末には恐らくならないからこそ、『若さと美のボーナスタイム』を過ぎてからの人生・関係・仕事の中で自己価値の本質が再度問われ直すことにもなるが……人生をただ舐めてかかるわけではない『リラックスした楽観(悲観・絶望・暗さを打ち払う認知・気質)』も、また人の美徳でもあるからただ真面目で地道でさえあればそれで良いというわけでもないが、いずれの道を進もうとも人生は難しいものだ、最終的に納得・満足の落ちがつけられる程度に生き方を調整していければ良しとしたい。

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