アニメ『キングダム 第二部まで』の感想

司馬遷の『史記』を題材に、秦の始皇帝(エイ政・えいせい)による中華統一のプロセスを架空の武将・設定を交えて創作的に描こうとするアニメ『キングダム』を二部まで見終わった。戦術や兵法、個人の武力のリアリティーを追及すれば粗もあるがなかなか面白かった。

主人公は戦争孤児の下賤の身分から立って、自らの実力のみで『天下の大将軍』を目指そうとする少年・信であり、秦王の政にそっくりな今は亡き幼馴染みの漂(ひょう)の遺志も継いでいる。

王騎将軍から特別遊撃隊『飛信隊』の創設を許された信は、大物を討ち取る戦功を重ね、遂には廉頗四天王で中央軍を率いた二刀流の天才剣士・輪虎(りんこ)を一騎打ちで葬って千人将の地位にまで登っている。

信を支える『飛信隊』の副長・羌カイ(きょうかい)は伝説の刺客一族の出身で、神が憑依する剣術と高い知性に基づく兵法に優れているが、廉頗との戦いの後に姉の仇討ちのためにいったん隊を離脱する。

有能な軍師として途中参加する信の知り合いの山民・河了貂(かりょうてん)は、初めは何もできない無力な子供だったが、信をバックアップできるようになるための修行の旅に出る。その後、蒙毅(もうき)と共に兵法の学習を進めて実力を養い、羌カイがいなくなって戦術を立てられないために連戦連敗を続けていた飛信隊に戻ってきて信を大いに助ける。

剣士・羌カイ(きょうかい)と軍師・河了貂(かりょうてん)という信に近い位置にいてフォローしてくれる美少女キャラを飛信隊に加えることで、天下の大将軍を連呼する戦争バカの信に、異性の魅力を意識する恋愛ストーリーの要素が生まれている。

秦の六大将軍の最後の一人だった王騎(おうき)がホウ煖・李牧に敗れて戦死し、魏の客将として立った趙の三大天の生き残りの廉頗(れんぱ)も、巻き戻すことのできない歴史の趨勢と次世代の追い上げを知り自ら戦争の敗北を認めて去った。

敗北を知らない無敵の将軍として諸国を畏怖させた趙(亡命後は魏)の廉頗、その廉頗に若かりし頃から連戦連敗を続けて縮み上がっていた秦の蒙ゴウとの戦いでもあったが、廉頗配下の四天王の個性と履歴、戦闘の勝敗も見所になっている。

廉頗四天王は『玄峰(げんぽう)・輪虎(りんこ)・介子坊(かいしぼう)・姜燕(きょうえん)』である。

玄峰は廉頗・輪虎に兵法を教えたほどの人物で、あらゆる戦略戦術に精通している小さな老軍師である。しかし勝つためには手段を選ばない山賊上がりの秦軍副将・桓騎(かんき)が、『魏の伝令役』に偽装して一気に玄峰に近づく。

桓騎に生殺与奪を握られている危険な状況でも玄峰は焦らず、自らの軍師としての履歴・権威を盾に『お前を弟子にしてやっても良いぞ』と桓騎に上からの心理戦を仕掛けようとしたが、権威を敬う型でもない山賊上がりの桓騎はそのまま個人の武力がない老いた玄峰を一人の雑兵のように切り捨てた。

大将軍廉頗さえも弟子に持つ長年培ってきた兵法家としての権威に頼る玄峰、理屈抜きでとにかく首を斬り落とせば勝ちとする獰猛な桓騎との双方の温度差の描き方が絶妙だった。蒙ゴウ率いる秦軍の副将の王翦(おうせん)と桓騎の個性が突出している。

将軍の身分でありながら我こそ王なりという野心的な自意識を持つ王翦は強いが、王である自分を第一とするので臣下として(君主のために死んでも良いと覚悟して)捨て身の攻撃には出てこない、落命のリスクを完璧に避けるために相手を徹底的に攻められずその戦い方に限界がある。

廉頗に拾われた戦争孤児の輪虎(りんこ)は、生来将軍としての資質に恵まれ、無敵の将軍・廉頗に武術を学び、天才軍師・玄峰に兵法を教え込まれたことで、中華第一ともいわれる軍指揮の突破力を誇るようになった。瀕死の重傷を負いながらも戦う度にサイヤ人のように武力を高めてくる信との激しい一騎打ちの末、無数の戦場を駆け抜けて廉頗と共に勝ち抜いてきた輪虎も遂に倒れた。

六大将軍と三大天が無数の名勝負を繰り返した大将軍の時代が終わりを迎えつつあり、信・蒙恬(もうてん)・王賁(おうほん)・李牧といった次世代の将軍が急成長して新たな戦乱の時代に突入しようとしている所で第二部は終幕する。復帰第一戦での王騎の想定外の戦死、絶対的な武力・戦術を誇った廉頗の退場、史記の戦争物語・武将列伝の本質としてある『無常観・世代交代』のようなものも感じさせてくれる。

Huluのご紹介(2017年8月時点で『キングダム』を観賞することができます。)

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