高速増殖炉もんじゅの技術面・安全面のハードルと核燃料サイクルの見通しの悪さ

高速増殖炉もんじゅは、『MOX燃料(プルトニウム・ウラン混合酸化物)』を燃やして、MOX燃料の消費量以上のプルトニウム燃料を生み出すことを目的にした原型炉であり、核燃料廃棄物を半永久的に再利用できる『核燃料サイクル』の実現を目指すものである。

『使用済み核燃料(長期にわたり有害な放射性廃棄物)』を再利用できる核燃料サイクルの技術を確立することができれば、『ウラン235の枯渇リスク(資源高騰リスク)の回避』と『使用済み核燃料の処分問題』を同時に解決できる夢の技術であるとして、もんじゅ建設当初は大きな期待が寄せられた。

核燃料サイクルを実現するための施設・原型炉として、青森県六ヶ所村の『再処理工場』と福井県敦賀市の『高速増殖炉もんじゅ』があるわけだが、残念ながら両方とも現時点ではまともに稼働しておらず、当初予算を越える莫大な施設・設備の建設費と維持費だけが積み重なり続けている。

何より2012年11月に、もんじゅは保安規定に基づく機器の点検漏れが9679個あったことを原子力規制委員会から指摘され、更に重要な非常用電源に関する点検漏れも発覚したことから、『もんじゅの無期限の使用停止命令』が日本原子力研究開発機構に対して出されている。財政的にも法律的にも技術的にも、『もんじゅの八方塞がり感』は深刻になっており、無期限の使用停止命令がいつ解除されるのかの目処も立っていない。

原子力規制委員会は原発事故の反省を踏まえて、内閣・国策から独立的に原子力関連機関・装置について調査と指導をする権限を保有しているため、政権が『原発推進・もんじゅ再稼働の方針』を持っていても、原子力規制委員会の根拠法そのものを改正しない限りは、短期間でもんじゅを再稼働させること(使用停止命令の即時解除)はできないのである。

使用済み核燃料からMOX燃料の原料となるウランとプルトニウムを取り出す六ヶ所村再処理工場は、複数回の事故・故障を繰り返して完成予定が大幅に遅れている。高速増殖炉もんじゅもまた複数回のクリティカルな事故を繰り返しており、原発を保有するアメリカやEU各国(フランス・イギリス・ドイツ)が高速増殖炉の『原型炉建設・実証実験』から既に撤退しているように、発火しやすい液体ナトリウムを冷却材として安定的に活用しようとする高速増殖炉は技術的ハードル(液体ナトリウムの配管接合部分における材質的な漏出防止機構確立のハードル)がかなり高いとされる。

実際問題として、もんじゅは今まで一兆円以上の巨費が投じられながら、1994年の稼動開始から合計してもわずか数ヶ月しかまともに運転できておらず、原型炉の次の段階である実用炉の建設がいつになるのか、それまでコストが幾らかかるのかはどの専門家も明言することができないというどっちつかずの状況が続く。

もんじゅも再処理工場も、現在進行形では稼働しておらずいつになったら技術的・設備的に完成するのかも分からない状態であるが、破砕帯・断層の現地調査と新安全基準の適用をはじめとする『安全管理体制の確立』は最優先課題になるだろう。

原発立地に限らず無数の断層が列島の地下を駆け巡っている日本では、原子力発電や高速増殖炉のゼロリスク化までは当然保障できないわけで、『断層が活断層か否か・地震発生時の地層のズレや破壊がどこまで及ぶか』という専門的・科学的な判断も一定以上の主観や推測を含んだものにならざるを得ない。

福島第一原発事故の後に新設された原子力規制委員会は、大地震が起こっても大丈夫なレベルの『新安全基準』を策定するという職務を担当したが、原発推進派からは『新安全基準はコストが高くて余りに厳しすぎる・反原発ありきの基準になっている』という批判もある。

しかし、大地震・大津波が起こっても大丈夫なレベルの安全基準というのは『原発施設・高速増殖炉の直下に活断層がないこと』や『東日本大震災を大きく越えるほどの震度や津波の高さではないこと』の前提ありきの話なので、地質の活動履歴の科学的推測を伴う『活断層の判定の仕事』というのはかなり重要な仕事である。

自民党政権下では『喉元過ぎれば熱さ忘れるになりがち』な原発再稼働政策・核燃料サイクルへの再挑戦に走りはじめているが、海外に原発インフラを積極的に輸出する『原発ルネッサンス』の夢を再び追いかける前に、『使用済み核燃料の再利用・削減』とも関係する核燃料サイクルの現実的な見通しとなる『新規安全対策・工程表・予算の見積もり』を作るべきだろう。