慶応大生による自殺教唆事件:『言葉の暴力』で限界まで追い詰められてしまう人・精神状態

自殺教唆というのは非常に発生率(逮捕件数)の少ない犯罪であるが、それは通常、『自殺しろ(自殺したほうが良い)』などと人に言われても、素直にその言葉に従って自殺する人が極めて少なく、また他人に自殺を意図的に教唆しようとする人も少ないからである。

自殺教唆容疑で慶大生逮捕=メールで繰り返し「死ね」―交際女性飛び降りる・警視庁

この事件では、別れ話を持ち出した女性のほうが、振られた男性(別れを告げられた側の男性)から自殺を教唆されて飛び降り自殺を決行していて不思議な感じもするが、元々、この容疑者男性と恋愛をしている最中から、『自殺をしてもおかしくない弱った抑うつ的・自己否定的な精神状態』にあったか、何度かの自殺未遂(あるいは自殺企図にまでは至らない自傷行為・希死念慮の打ち明け)などを起こしていた可能性が想定される。

別れの原因が何だったのかは不明であるが、容疑者との恋愛関係におけるDV・モラルハラスメントの可能性も含め、『付き合っていること(相手の言動・態度)による精神的な不安定さ・混乱・自己否定』があって、別れ話を切り出す時点で相当に精神的に不安定だった(それ以上の精神的攻撃やストレスを受けると持ちこたえにくい精神状態だった)のではないかと思う。

抵抗力やストレス耐性を有する健康な精神状態にある人に対して、『お願いだから死んでくれ・手首を切るより飛び降りれば死ねる』というメッセージを送っても、実際にその言葉に従って自殺してしまうことはまず考えられない。

苛立ちや不快感を抑えないちょっと強気・攻撃的な女性が相手なら、『そんなひねくれた性格だから嫌われて振られるんだよ(本性が再確認できて別れて良かったよ)・不愉快だからもう二度とメッセージをしてこないでね・別に自殺するつもりなんかないんですけど、何で自殺方法を上から目線で語ってるの・最後の最後まで格好悪い発言しかできないんだね、別れる時くらいもっと良い印象でも残して別れてみれば』といった反撃を意図した皮肉な返事の一つ二つでも返ってくるか、そのまま無反応で完全に無視されて終わりだろう。

あまりに皮肉なバカにした返事をすると逆恨み・物理的な報復をされるリスクもあるのでお勧めはできず、必要以上に刺激せず怒らせず平穏に別れること、別れの不可避性を受け容れさせ納得させることがベストであることは言うまでもないが。

ニュース記事にある『手首を切るより飛び降りれば死ねる』というメッセージからは、被害者に『交際期間中からのリストカット(致死的ではない自傷)の既往歴』があったことが推測されるが、リストカットやオーバードーズなどの自傷行為を繰り返している人や日常的に自己嫌悪・自己否定が極度に強い人だと『被暗示性の高さ(自分が生きる価値がないとかダメな人間だとかいう思い込みを更に強めるテクニカルな暗示にかかりやすい)・攻撃的言動による傷つきやすさ(ストレス耐性の弱さ)』が自殺教唆を成り立たせやすくすることもあるだろう。

被害者の女性が交際中に希死念慮を訴えたりリストカットをしていたりしたことを知っていた容疑者が、意図的に『死にたいと言っているが実際には死にたくないんだろう』という挑発的・暗示的な意味合いを込めてメッセージを送ったのだしたら、その既知の情報に基づく合理的予測を忖度すれば『間接的殺人(自分の攻撃的な言葉の有効性を知りながらの自殺の間接的強制あるいは誘導)』と呼べるような罪質(悪質性・悪意性)を帯びるだろう。

自殺教唆という犯罪は、自殺しなければもっと酷い目に合わされたり拷問を受けたり、家族が自分の代わりに殺されたりするという『逮捕監禁・脅迫・傷害』を伴っている状況でなければ、『自分の内面にある希死念慮・自己否定(自己嫌悪)・厭世観』が言語的暗示(催眠誘導)や精神疾患に近い意識水準の低下によって強化されない限りはそうそう成り立つものではない。

だが、日常的な罵倒・暴言・価値否定・無視などのモラルハラスメント(精神的虐待)などのネガティブな経験があると、『お前に生きる価値や権利はないという刷り込み』が無意識的なアンカリング(自己規定の錨・重石)として機能しやすくなる。

自分自身の精神状態が悪化して正常な判断が困難になっている時に、もう一度『お前は死んだほうがいい・生きている価値がない・本当は見せかけで死にたくないんじゃないか』と言われると、『言語的暗示の強化作用(意識レベルの言語的暗示と無意識レベルのアンカリングの相互作用)』が非常に生じやすくなり、その言葉に反駁する気力そのものが起こらないリスクがある。