米国主導の有志連合やヨルダンによるISIS(シリアとイラクの大イスラム国)拠点の空爆:イスラム国を生んだ米国外交

ISISやISILと称する暴力支配を是とする武装集団(通称イスラム国)は、『イスラム原理主義国家建設』を掲げて前近代のカリフ制度や男権社会の復活を目論んでいるともされるが、イスラム国を突き動かしているものは『俗世的なカネ(オイルマネーの配分)・女(制圧地域の対人支配)』と『理念的な反米主義・反近代主義(現行世界秩序の否定)』だろう。

イスラム国の兵士に志願する者には、イスラム教の原理主義的な信仰などには興味のない粗暴な人たち、先進国の文明社会に適応できなかったり欧米社会でムスリムとして差別を受けたりして、暴力・略奪・強姦などの力による支配に魅了された人たちも数多く参加している。

イスラム国兵士のモチベーションを最も強く支えているのは割高な給料(オイルマネーの配分)だという話もある。そのため、戦況が劣勢になって戦死者が増えればイスラム国の忠誠心や求心力は段階的に弱まるのではないかという推測もあるが、『反欧米・反近代・反男女平等主義(反人権思想)』といった現代の国際秩序の中心的な価値観に反対する人や勢力は終わりなく生み出されている。

イスラム教国家のヨルダンが、パイロットのムアーズ・カサースベ中尉が殺害された報復として、アサド政権の治世権が失われたシリア国内のIS拠点に苛烈な空爆を仕掛けた。

こういった空爆による空からの制圧作戦はアメリカが主導して繰り返し行われていて、既に数千人から1万人程度の規模でイスラム国の兵士・住民が殺害されたというニュースもあるが、空爆攻撃を受けている人たちが本当に兵士やテロリストなのかは検証する手段がない。

恐らく、ただイスラム国の勢力圏に元々住んでいて、イスラム国から武力で脅されて表面的に従っているだけの、大勢の一般市民も空爆のコラテラルダメージとして巻き込まれているだろう。

イスラム国の擬似国家的組織としての成長は、シリアのアサド政権の弱体化をもたらした『アラブの春』に助けられた側面があり、シーア派で数としては少数派のアサド政権に対抗する『スンナ派の民衆武装組織(反米主義勢力・反アサド派)』が一つの母体になっている。

アラブの春は欧米諸国が当初都合よく期待していたような『中東地域の近代化(自由化・民主化・人権尊重・非宗教化)』をもたらすことはなく、逆に親米独裁政権(世俗主義の権力機構)の排除による民衆のイスラム信仰の活性化(原理主義回帰)をもたらす皮肉な結果となった。

ムスリムの権利を抑圧し続けた独裁政権の重石を外せば、民衆は自由と民主主義を求めるはずという欧米の浅薄な推測は、『近代的な個人・資本主義的な市場経済』が誕生する諸条件を備えていない中東地域に通用するはずもなかった。

そもそも、マックス・ヴェーバーのいう『脱魔術化(宗教・迷信の科学主義による反駁=ライフスタイルや政治体制の脱宗教的な通俗化)』という近代化のための必要条件さえ中東諸国の多くは満たしていない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦、カタールなど表面上は世俗主義や市場経済、人権に適応しているように見える親米産油国の大半もまた、『前近代的な王政(バラマキをする専制君主制)』を維持している。

イスラム教を信奉する敬虔なムスリムが構成する国家では、『独裁権力や教育体制の問題』を抜きにしても、民衆自らがイスラム教の法律・慣習・風習・男女観に従った政治や生活、家庭を望んでしまうことになるので、権力に強制されていなければ人々は我々欧米人と同じように『自由で平等な個人・男女平等の意識』を目指すはずだというのが半ば欧米的基準に偏ったフィクションでもある。

アメリカはイラン・イラク戦争におけるイラクのフセイン政権への肩入れ、9.11米国同時多発テロに対抗するアフガン戦争・イラク戦争、制圧拠点における米軍の長期駐留と現地民の屈辱感、アラブの春を間接的に支援したチュニジア革命やエジプト革命、シリア動乱などにおいて、『将来の欧米諸国の敵対勢力(反米主義者・反近代主義者)』を育成してしまうような外交上の失策を演じたとも言えるが……この失策は『将来の戦争需要(アラブ反米勢力の抵抗機会)とイスラーム圏分裂を生み出すための軍産複合体・イスラエルの計略』である可能性も否定できないところが恐ろしいところである。