電通の東大卒・女子社員の自殺問題:現代で主観的幸福と結びつかない事もある『学歴・職歴・収入の競争』

“能力・意欲・使命感”のある若い人材を、電通・上司が未必の故意(パワハラ)で自殺に追い込んだ事例か。過労だけが人の精神を壊すのではなく、『洗礼的な」しごき・存在や努力の否定』で壊れやすい。

<電通新入社員>「体も心もズタズタ」…クリスマスに命絶つ

死ぬほどつらければ辞めればいいと言うのは簡単だが、自殺した新入社員は母子家庭で苦労して育ててくれた母を助ける為、懸命に勉強して東大に合格、就活でも複数回の選抜試験をパスして電通に入社したのだろうから、『母を支えたい使命感+最初のキャリアで躓けない気負い』から辞める選択肢は除外していた可能性が高い。

学力試験は特に『努力すれば報われやすい世界』であり、新入社員の女性は『今まで努力することで結果を出してきた成功体験』もあるから、過労で仕事や性格にダメだしを受け続けても初めは『ここさえ耐えてクリアすれば何とか続けられるはず・改善点さえ分かればできる・諦めたら負ける』の思いもあっただろう。

電通・リクルートなどは勤務時間でもメンタル面でもハードな職場だが、『本人のメンタルや認知方略・人材の育て方・部署や上司との相性』によってハードな長時間労働で鍛えられるか精神を折られるか(トラウマや適応障害にされるか)の運命は分かれる。レポートやプレゼンの恣意的連続的なダメだしは洗礼のしごきに近いが。

真面目過ぎる人は『恣意的・連続的なダメだし』を文字通りに受け取り、『自分がダメな人間・能力や資質のない人間』と思い込んで自己否定や抑うつに落ち込むか、瑣末な点にこだわって徹夜仕事でぐだぐだになる。そこに長時間労働による意識朦朧や判断力低下が加わると自殺企図のリスクは上がる。

レポートや文章のどこが悪いか言わない曖昧なダメだし、頭ごなしの書き直せ的な全否定には、『具体的な修正・改善の指摘』がなければ鈍感力でやり過ごせるようになるべき。何を書いても数回はダメだしする型も多い(上司に書かせても大した差はない)と知り、『余力確保のポイント』を掴まないとハードワークは心身を壊す。

人間の生命力も仕事力もその根底には『睡眠時間による健康と精神力の再生産』がなければならず、『睡眠を確保させず精神的に追い込む働き方』をさせる企業は間接的な人殺しになりかねないブラック企業である。電通は社員の教育方法と健康管理のあり方、緊急の相談体制を根本から見直すべき。

悪質な企業や上司は、従業員を『利益を上げる為だけのコマ』のように捉えがちで、『人格・尊厳・関係を持つ一人の人間』である事を失念する。自殺した女性社員にも、大切に育ててきた母親がいて、行動や思いを共にした友人もいて、頑張って生きてきた歴史もある、想像力があれば極端なパワハラや全否定はできないものだ。

東大卒の電通社員の過労・自死は、格差社会とされる現代のシニカルで逆説的な一面を照らす。高学歴・高所得で難しい(厳しい)仕事は、現代社会の成功・選良のパスポートとされるが幸せと直接相関しない。『過剰な思考・完全や上昇の志向』は武器より足枷にもなる『考え過ぎない単純さ・生活と愛に注力』は生命力を強める。

東大に及ばない学歴、電通等の大企業でなくても、同世代で余りストレス・過労なく、それなりに仕事や恋愛、友達、結婚、ネット投稿などを楽しんでいる層も多いはずだが、『考え過ぎない普通さ・単純な明るさ(大変でも毎日が楽しいと思える事)』は競争社会の優劣からは見えづらいが、人間の生に影響するウェイトはある。

ノブレス・オブリジェで満足できれば良いが、現代では過剰な思考、高い目標、ストイックな忍耐で『生の重圧』を重くしすぎると『終わりなきノルマ・自己規定の拘束』に陥る罠が至る所にある。『生の軽やかさ』は努力や忍耐で得るというより、自らの興味や感情に逆らいすぎない自然さ・流動でいつの間にか重圧が減じる。

されど現代人はやはり大半が生きるに必要なことを超えて考えすぎる、知識・情報・将来予測で循環する、ほどほどに働くのも難しい、人間関係も類似性の原理で同じような傾向の人と結びつきやすいなど、半ば自由意思でどうにかなるようで、半ば運命・決定論の網に絡み取られる。明日に倒れぬ程度に今日の最善を尽くす他なしか。

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