映画『ホワイトハウス・ダウン』の感想

総合評価 82点/100点

世界の最高権力者であるアメリカ合衆国大統領の居住地・政治拠点である『ホワイトハウス』がテロ勢力によって陥落させられるという筋書きは、ジェラルド・バトラー主演の『エンド・オブ・ホワイトハウス』とも共通しているが、『ホワイトハウス・ダウン』のほうがライトな作りになっている。

本格的なアクション映画としての銃撃戦の迫力とテロ計画の深刻さでは、『エンド・オブ・ホワイトハウス』のほうが面白いと思うが、『ホワイトハウス・ダウン』は議会警察官のジョン・ケイル(チャニング・テイタム)とジェームズ・ソイヤー大統領(ジェイミー・フォックス)とのコミュニケーション(友情の芽生え)に重点が置かれている。

あちこち転職を繰り返して軍隊でも上官に不遜な態度を取ったりして、キャリアがガタガタなジョン・ケイルだったが、娘のエミリー・ケイル(ジョーイ・キング)の前で良いところを見せたくて、『大統領警護官』に応募するのだが幼馴染みだった面接官の評価は学歴面でも経歴面・素行面でも警護官として採用できる基準に達していないという散々なものだった。

積極的に中東和平工作を展開するリベラルなソイヤー大統領の大ファンで、ホワイトハウスや大統領に関する豊富な知識を持っている政治オタク風なところのあるエミリー・ケイルが、所々で重要な役割を果たすストーリーになっている。テロリストと裏で結託しているのはアメリカの軍事産業、軍産複合体であり、『世界から戦争がなくなると困る勢力(米国経済に深くコミットしている死の商人)』を仮想的に据えているという意味で、アメリカの民主党的なイデオロギーや核廃絶の構想を支持するような内容になっていて、『ホワイトハウスに対するテロ』を題材にしつつ『アメリカ流の反戦思想』の映画という側面も強い。

ジョン・ケイルが警護している下院議長のネオコンサバティズムのイーライ・ラフェルソン議員(リチャード・ジェンキンス)が、大統領権限を乗っ取ろうとしているテロの黒幕なのだが、その議員に軍産複合体から多額の寄付金が寄せられているという『政治と軍事産業の癒着』の告発と逮捕で幕を閉じる。

テロで大統領・副大統領を殺害して、憲法規定に基づいて大統領権限を簒奪したイーライを欺くために、ソイヤー大統領は自分が死亡したように見せかけるが、ソイヤー大統領とイーライの『大統領権限を巡る言い争い(正規の手続に基づいていったん大統領に任命された自分が正統な大統領だと強弁するイーライ)』も合衆国憲法の規定の有効性という意味では面白いかもしれないが、あっという間に逮捕されて連れ去られた。

大統領職をのっとったイーライが、自分がテロに関与した証拠を吹き飛ばすために、アメリカ軍の最高司令官の権限を用いて、他の側近が反対する中で強引に『半壊したホワイトハウスに対するミサイル攻撃の命令』を出す。しかし、戦闘機F-22のパイロットが大統領旗を必死に振って攻撃の不必要性を伝えるエミリーとその周囲のアメリカ市民の姿を目視してミサイル攻撃を躊躇してボタンが押せず、遂に大統領の命令に反して独自の判断で攻撃を中止して引き返した。

実際の場面で大統領(最高指揮官)の命令に対して自己判断で逆らえる軍人がいるとは考えにくいと思うが、自国民を殺害しないとか無抵抗な一般市民を殺害しないとかいうある種リベラルなヒューマニズムと軍隊の機械的な指揮命令系統(人間的メンタリティの排除)との葛藤を扱っているように見ることもできた。